理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF2-073
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口述発表(特別・フリーセッション)
前十字靱帯(ACL)損傷患者のスクワット動作における対称性の検討
砂田 尚架櫻井 愛子工藤 優原藤 健吾福井 康之飯田 智絵大谷 俊郎
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キーワード: ACL, スクワット, 動作解析
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抄録
【目的】
スポーツ医学の発展に伴い,手術前後のリハビリテーションが重要視され進歩したことによりハイレベルでのスポーツ復帰も可能となり,前十字靭帯(ACL)損傷患者においてもリハビリテーションの有効性が多くの研究で示されている。ACL損傷に対し,臨床現場で取り入れられているエクササイズの一つにスクワット動作がある。スクワット動作は, ACL再建術後早期からでも安全性が高く,効率的な筋収縮に有効であるとされるClosed Kinetic Chain exerciseの一つである。また患側,健側同時に関節運動が起こるため,関節運動と荷重負荷における患側,健側の対称性を獲得するためのエクササイズとしても有効である。そこで本研究ではスクワット動作を用いて,ACL損傷患者の患側膝と健側膝の対称性について,関節運動と荷重量の両側面から比較検討することを目的とした。
【方法】
対象はACL損傷患者5名(平均年齢22.8±4.3歳,男性1名・女性4名)とした。ACL損傷の受傷から評価までの期間は,3.1±2.1ヶ月であった。
計測は,体表に赤外線反射マーカー36点を貼付し,三次元動作解析システムVICON MX(カメラ10台),床反力計(AMTI,6枚)を用いて行った。計測動作は,両下肢を腰幅に開き,体幹20°前傾を保持した状態で膝関節60°まで屈曲したあとに伸展させるスクワット動作とし,5回連続行った。なお,体幹前傾角度,膝関節屈曲角度はゴニオメーターにて決定し,数回練習を行なってから計測した。計測したマーカー位置からAndriacchiらの開発した方法(Point Cluster Technique)を用いて膝関節屈伸,内外反,内外旋偏移を計算し,静止立位角度により補正した。体幹前傾位でのスクワット動作において,ACL損傷患者の患側膝と健側膝の膝関節屈伸,内外反,内外旋角度の最小値と最大値から変化量を算出して比較した。統計学的解析には,t検定(paired-t)を用いた。また,患側膝と健側膝における各々の角度変化量の患健比も算出し,同時に,スクワット最大屈曲時の患側膝と健側膝における荷重量(N)を床反力計から求め患健比を算出した。
【説明と同意】
本研究は,国際医療福祉大学三田病院倫理委員会の承認を得,対象者に口頭と文書にて説明を行い,研究の参加に対する同意を得て行なった。
【結果】
患側,健側膝関節の屈伸,内外反,内外旋変化量を比較した結果,全ての変化量において統計学的有意差は認められなかった。しかし,患側は健側よりも屈曲角度を小さくする傾向にあった(患側64.1±19.7度,健側70.3±15.6度,p=0.06)。また,荷重量においても患側と健側の統計学的有意差は認められなかったが,5例を個々に比較検討したところ,健側に対する患側の荷重量が100%以上の症例が2例,100%未満の症例が3例であった。また,健側に対する患側の荷重量が100%以上の2例では患側の膝関節外反・内旋変化量が小さい傾向にあり,100%未満の3例では患側の膝関節外反・内旋変化量が大きい傾向を示した。
【考察】
ACL損傷による膝関節の不安定性を防止するための代償運動として,歩行では膝関節の屈伸変化量を小さくして歩行するというstiffening strategyがよく知られている。今回課題とした,両側同時に対称的な動きが生じるスクワット動作においても,患側の膝関節をなるべく屈曲せずに運動する傾向が示されると推察した。しかし,今回の結果より,膝関節の動的不安定性を制御する戦略として,患側へ荷重をかけて膝関節外反,内旋変化を小さくし,関節の安定性を確保するパターンと,患側の膝関節外反,内旋変化は大きいが荷重負荷を逃避するパターンとの2つの代償動作がある可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
スポーツ復帰を視野にいれたACL損傷患者の理学療法を行うためには,代償動作を抑制し,対称性の高い動作の獲得を図ることが重要である。
本研究結果から,ACL損傷の代償動作として角度変化と荷重量の両方の関係性が示唆された。臨床での術後理学療法において,膝関節の運動角度のみではなく,荷重量も考慮して,代償動作を抑制していくことが重要である。
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© 2011 日本理学療法士協会
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