理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-346
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ポスター発表(一般)
腹部肥満が中高年女性の咳嗽力に与える影響
腹囲,姿勢による検討
山科 吉弘増田 崇田平 一行
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キーワード: 腹囲, 咳嗽力, 姿勢
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抄録
【目的】
分泌物除去を目的とする有効的な咳嗽は,気道クリアランスの面からも重要である.高齢者の死因として肺炎は大きな割合を占め,その原因の一つとして感染防御機能の低下が指摘されており,咳嗽力低下もその一つとされている.近年,食生活の欧米化や運動不足などの生活習慣の変化により肥満者が増加傾向にあり,生活習慣病により入院する肥満者も増加してきている.肥満者の呼吸機能は脂肪沈着部位に影響を受けるとされ,特に腹部への内臓脂肪沈着は横隔膜の動きを制限すると言われている.また,呼吸機能は姿勢の影響をうけ,端座位に比べ背臥位では腹部内臓器が押し上げられ,横隔膜への抵抗が増加するとされている.そこで,今回中高年者の腹部肥満が咳嗽力に与える影響や姿勢の影響について検討したので報告する.
【方法】
対象は,喫煙歴がなく呼吸器・循環器疾患の既往がない中高年女性16名(年齢63.7±3.6歳,身長154.3±5.3cm,体重56.8±13.7Kg,腹囲90.5±18.0cm)とした.
腹囲を腹部肥満の指標として用い, 安静呼気位時の臍部の高さでテープメジャーを利用し測定した.そして女性におけるメタボリックシンドロームの基準となる腹囲90cm以上を肥満群(8名),90cm以下を非肥満群(8名)として2群にわけた.各被験者に対して背臥位,端座位の2姿勢で咳嗽時最大呼気流量(Cough Peak Flow:CPF),肺活量(Vital Capacity:VC)を計測した.CPF,VCの測定にはMINATO社製電子スパイロメーターAS-307を用いた.測定はランダムに姿勢を選択し,各3回行い最大値を採用した.また,端座位を基準とした背臥位になった場合のVC,CPFの変化率をそれぞれΔVC,ΔCPFとし,体位変換が与える影響の指標とした.尚,各測定間には十分な休憩を設け疲労がないことを確認した.
統計学的処理は,全員の各姿勢におけるCPF,VCを対応のあるt検定にて比較し,肥満群と非肥満群間でのCPF,VC, ΔCPF,ΔVCは対応のないt検定を実施した.腹囲と各項目との関係はPearsonの相関分析を行なった.いずれも有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】
被験者全員に対し書面と口頭にて本研究の目的や方法,リスク等を十分に説明し承諾を得た.
【結果】
姿勢における比較では両群のCPF,VCは有意に端座位が高値を示した(p<0.01).肥満群と非肥満群間の比較では肥満群においてΔCPF,ΔVCが有意に高値を示したが(p<0.05),CPF,VCは両群間で有意な差を認めなかった.腹囲との関係では肥満群においてΔCPF(r=0.71,p<0.05) ,ΔVC(r=078,p<0.01)と有意な相関を認めた.
【考察】
今回の結果から肥満群,非肥満群ともにCPF,VCは有意に端座位が高値を示し,姿勢の影響を受けることが確認された.肥満群と非肥満群間での比較では両姿勢におけるCPF,VCに有意な差はなかった.しかし,肥満群においてのみΔCPF,ΔVCが有意に増加し,これらは腹囲との強い相関を認めた.背臥位では腹部内臓器が押し上げられ,横隔膜への抵抗が増加するとされているが,肥満群ではその影響を強く受ける可能性が示唆された.
これらのことから、呼吸機能において内臓脂肪の増大はより姿勢の影響を強く受けることが考えられ,開胸術後などなんらかの原因で咳嗽力が低下している腹部肥満者の安静臥床は非肥満者に比べ呼吸器合併症を発症するリスクが高くなる可能性が示唆された.よって,呼吸理学療法を進める中で肥満者においては,一般の患者以上に早期離床を促すことが望ましいと考えられた.
【理学療法学研究としての意義】
近年,食生活の欧米化や運動不足などの生活習慣の変化により肥満者が増加傾向にあり,生活習慣病により入院する肥満者も増加してきている.今回の結果から,腹部肥満者の呼吸機能は非肥満者と比べより姿勢の影響を受けやすい可能性があり,できうる限り早期離床を促すことが望ましいと考えられた.腹部肥満者の呼吸機能の特徴を検討することは,呼吸器合併症のリスク管理を含め理学療法の一助になると考えられる.
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© 2011 日本理学療法士協会
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