理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-357
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ポスター発表(一般)
肺癌患者における肺切除術前後の運動強度別身体活動量の推移について
前田 和成白石 匡本田 憲胤東本 有司廣畑 健南 憲司岩崎 拓也松尾 善美福田 寛二
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キーワード: 身体活動量, 肺癌, 周術期
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抄録

【目的】厚生労働省が発表している人口動態統計調査(平成21年版)によると、日本における日本人の死因第1位は悪性新生物であり、全死因の30%に相当する。慢性閉塞性肺疾患や心大血管疾患などのリハビリテーション(以下:リハ)の効果は確立されつつある。しかし、肺癌患者数が増加しているにも関わらず、肺切除術前後の呼吸リハの効果については十分に検討されていない。肺切除術前後での心肺機能の指標となる最高酸素摂取量の変化についてはこれまでに報告されており、術後の心肺機能は低下することが示されている。しかし、手術前後の身体活動量や活動性の変化については検討されていない。本研究では、肺癌患者における肺切除術前後の運動強度別身体活動量の推移を明らかにすることを目的とした。

【方法】肺切除術前後に呼吸リハを実施した患者12例(男性7名、女性5名、平均年齢64.7±6.2歳)を対象とした。身体活動量の測定は、3次元加速度センサー内臓のアクティーマーカー(Panasonic社製:アクティーマーカーEW4800 P-K)を使用した。測定期間は、術前日及び術後5日間とした。身体活動量計は、重心の位置に近い腰部に装着し、入浴時を除く24時間測定した。身体活動指数は、1日の総エネルギー量を基礎代謝量で除した値を使用し、運動強度別の活動量は、1分毎に各強度の運動を行うと1カウントとし加算した。術前と術後各日の身体活動量を、Wilcoxonの符号付順位検定で比較した(有意水準5%)。

【説明と同意】対象者に対して、研究の目的、研究方法及び倫理的配慮の説明を十分に行った。また、この研究に参加するかどうかは自由であり、研究への参加を断わっても何ら不利益を生じないこと、また提供される医療に支障がないこと、参加に同意頂いた場合、研究を始めた後に参加を取りやめることはいつでも可能であることとした。この臨床研究に参加頂けるかどうかは、担当医師が説明を行った日の翌日以降、十分に検討した後、この研究に参加頂ける場合は、「同意書」に署名を頂き同意を得た。

【結果】身体活動指数(中央値)は、術前1.5、術当日1.1、術後1日目1.1、術後2日目1.3、術後3日目1.4、術後4日目1.5であり、術前値との比較では、術後3日目まで有意差がみられたが、術後4日目以降は有意差を認めなかった。すなわち、術後4日目で術前の状態にまで改善した。運動強度別に比較すると、1.1METs以下の運動強度の低い活動は、術後3日目で回復したが、3METs以上の運動強度の高い活動が術前の数値にまで改善したのは、術後5日目以降であった。

【考察】1.1METs以下の運動強度の低い活動とは、寝返りやギャッジアップ座位程度の活動である。つまり、床上における活動性は術後早期に回復できたと考えられた。しかし、時速4.8km程度の速い歩行などが含まれる3METs以上の高い運動強度の活動性の回復には、術後日数を要することが示唆された。以上のことから、肺切除術患者の術前後の身体活動量や運動強度別にみた身体活動量の推移の傾向について知ることができた。しかし、術前後の呼吸リハの効果指標となりうるかについての検証や術後早期社会復帰に必要な運動強度別の具体的方法の指導や身体活動量が十分に獲得できるリハ期間、プログラムの配慮が必要であると考えられた。

【理学療法学研究としての意義】現状では、肺切除術前後のリハに関してのエビデンスは乏しく、本研究により、肺癌術前後肺切除術患者の身体活動量の推移を明らかにすることで、術後早期にADLを復帰させるための適切なリハプログラムを提供することにつながると思われる。今後は、術前の身体機能あるいは呼吸機能のうち、どのような因子が術後の身体活動量の回復に関連しているかを明らかにし、呼吸リハにより、活動性の術後早期回復を促すことが検証できれば、より効率的な理学療法を提供することが可能となり、さらに早期の社会復帰につながるように援助できると考えられる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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