抄録
【目的】ドセタキセル(DTX)は、再燃前立腺癌に有効とされる抗がん剤であるが、副作用として薬剤性浮腫や四肢遠位端を中心に強皮症様皮膚硬化などが見られることがあり、進行によって手指拘縮やROM制限を来すことがある。今回、DTX投与中に右上肢に強皮症様皮膚硬化を認め、手指屈曲制限に伴う上肢機能障がいが見られたため、複合的理学療法(CDP)+超音波療法を施行し検討したので報告する。
【方法】60歳代男性、再燃前立腺癌、転移性骨腫瘍(右上腕骨・脊椎)放射線療法(RT)後。主訴は右手指屈曲制限に伴う上肢機能障がい。再燃前立腺癌に対するDTX+プレドニン治療は1回/3週外来で行われた。5クール後右上肢浮腫が出現し皮膚硬化を来した。8クール後両下肢浮腫出現したが、利尿剤で改善した。エコーの結果、右腋窩~手背にかけて内側優位に皮下浮腫を認め、上腕~前腕部では筋層の浮腫も伴っていた。10クール後よりCDP開始。上肢リンパ浮腫ステージは2後期、皮膚硬化・肥厚著しく圧痕は上肢全体に見られた。握力21.9kg/33.5kg、手指以外にROM制限は認めなかった。1回/月外来では改善困難と考え3週間入院の集中排液期治療に変更した。入院はリンパ浮腫治療認定を受けたPT、Nsがペアで行い退院後1回/月外来フォローを行った。退院後は弾性着衣の圧迫を続けた。その後右体幹浮腫や手の皮膚硬化増強、爪の変色・変形が認められた。16クール後両下肢に浮腫が再発、胸水貯留も認め休薬となった。下肢浮腫は利尿剤で改善した。休薬後、手背の強皮症様皮膚硬化を認めた。徐々に手指伸展拘縮を来したため手背に対しほぐし手技を中心にCDPを行った。手背の皮膚硬化は改善されなかったため、超音波療法(周波数3MHz、強度1.0W/cm2、10分間)を併用して行った。今回は1.CDPとDTX投与による浮腫との関係、2.強皮症様皮膚硬化とCDP+超音波療法効果について検討した。方法は1.CDP開始時、DTX休薬開始時、CDP最終時のそれぞれの容積、腫脹率、スキンスコア、圧痕性を求め、2.DTX休薬開始時、CDP最終時の手指MP屈曲角度を測定した。上肢機能についてはTHE DASH The JSSH Version(DASH)を使用した。
【説明と同意】症例に対し十分な内容説明し同意を得た。
【結果】1.についてCDP開始時、DTX休薬開始時、CDP最終時のそれぞれの容積は839.52cm3,710.38cm3,656.75cm3休薬後さらに減少を認めた。腫脹率は腋窩3.67%, 2.8%,0%、肘上10cm24.8%,16%,8.57%、肘下5cm15.04%、7.7%,5.83%、手関節13.93%,11.76%,10.18%、手背11.91%,15%,10.93%軽減効果は中枢部に大きく末梢部は少なかった。スキンスコアは11点,12点,10点、手背の圧痕はCDP最終時消失した。2.についてDTX休薬開始時とCDP最終時のそれぞれのMP屈曲角度は母指側より12°→55°,36°→45°,22°→35°,16°→30°,28°→40°であった。超音波療法後、手背の皮硬化やMP屈曲時の手背突っ張り感が軽減し母指~中指のつまみ動作など動かしやすさを認めた。DASHは67.14で高度に近い障がいを認めた。
【考察】伊藤らによると皮膚硬化は重症の場合関節拘縮などを招き一度線維化が完成すると改善は非常に困難で、薬剤投与中止後も遷延する傾向があったと述べている。本症例の場合、強皮症様皮膚硬化はDTX休薬後に出現、4ヶ月経過後も改善は見られずDTX遷延による影響を示唆していた。DTXによる強皮症様皮膚硬化は強皮症のように皮膚が硬く圧痕を認めず、ほぐし手技やストレッチでは皮膚伸張効果は得られなかった。強皮症様皮膚硬化による拘縮やROM制限は徒手的治療に限界が感じられた。そのため、浮腫・皮下組織の拘縮に有効とされる超音波療法(3MHz、強度1.0W/cm2)を手部への10分間照射した。その結果、手背の皮膚伸張が得られほぐし手技やストレッチが可能となった。超音波の皮下に対する機械的効果により手背の突っ張り感や手掌肥厚の軽減を認めた。また照射後、愛護的なほぐし手技により手のリンパ環流が促進されたことやストレッチで皮膚や長母指伸筋、総指伸筋が伸張されたため、MP屈曲角度が平均16°改善されたと推察される。DASHでは高度に近い障がいを認めたがCDP+超音波療法後は母指~中指が動かしやすくなりボタンのつけはずしや箸が使いやすくなったなどのADLの改善を認めた。強皮症様皮膚硬化による拘縮・ROM制限は改善は少なかったが、理学療法介入によりADL機能を維持することができたものと考える。
【理学療法学研究としての意義】DTXによる強皮症様皮膚硬化症例は、ADL機能を維持し悪化させないことが重要であり積極的に理学療法士が治療に携わっていかなければならない。