理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-085
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口述発表(特別・フリーセッション)
健常高齢者および脳血管障害者の歩行前後でのInterleukin-6動態に関する研究
大古 拓史坪井 宏幸安岡 良則星合 敬介小川 真輝戸根 弘将児島 大介橋崎 考賢花澤 晃宏上林 祐詞木下 利喜生梅本 安則尾川 貴洋中村 健
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抄録

【目的】
脳血管障害のリハビリテーションにおいて,運動療法が施行されるが,特に起立・歩行訓練は,運動療法の必須項目である.運動負荷は筋力増強に寄与し,代謝系への影響をはじめ高脂血症や糖尿病等の内部障害の改善をもたらすことは広く知られており,健康を維持するのに運動は不可欠ということが分かっている.
近年,Pedersonらによって,骨格筋は単なる運動器ではなく,収縮することにより,サイトカインの一種であるInterleukin-6(以下IL-6)を多量に放出する内分泌器官であることが明らかにされた.骨格筋の収縮により産生されたIL-6は,糖代謝,脂質代謝の活性化,造血幹細胞の活性化に関与し,その結果,高脂血症や糖尿病を改善するという機序を提唱している.
これまで,健常者においてマラソン等の高負荷運動後でのマイオカイン分泌の報告は多数あるが,障害者に関するものはほとんどない.障害者においても日常行うような運動の効果を明確にする必要がある.本研究の目的は,脳血管障害の歩行でのIL-6濃度の変化を測定・検証することである.
【方法】
被験者は,糖尿病・骨関節疾患の既往のない脳血管障害者10名(年齢 ; 55.8±8.7歳,身長 ; 165.3±8.5 cm,体重 ; 62.2±6.3 kg,男性6名,女性4名,右麻痺5名,左麻痺5名),健常高齢者10名(年齢 ; 56.0±7.5歳,身長 ; 163.8±7.5cm,体重 ; 63.7±9.5kg)とした.脳血管障害者は,短下肢装具を装着し杖歩行自立可能な被験者を選定した.健常高齢者も同条件で歩行を行った.歩行は,20m間隔で目印を設置した場所を快適な歩行速度で周回した.被験者は,30分の安静座位後,20分間の歩行を採血の為の5分を挟み2度行った.歩行終了後,安静座位を1時間行った.採血は,歩行前,20分歩行後,40分歩行後,歩行終了1時間後に医師が行い,前腕から1回12mlを採血した.採血後,直ちに遠心分離機で血漿・血清を分離させ,Bio-Plex system (Bio-Rad)を用いて血中IL-6濃度を測定した.また,白血球数,およびその分画である単球,ヘマトクリット値の測定も行った.併せて,心拍数(HR)をモニタリングし,Borg’s Scaleを用いて主観的疲労度を測定した.結果の解析は,ANOVAを行い,post hocテストでTukeyを用いて歩行前後での検定を行い,有意水準は5%とした.
【説明と同意】
本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会で承認されており,実験に先立って被験者には研究の主旨と方法を文書と口頭で十分に説明し,同意を得た上で施行した.
【結果】
総歩行距離は,20分間の歩行で健常高齢者 ; 1366.4±111.9 m,脳血管障害者 ; 335.7±89.6 mであった.歩行速度は,健常高齢者 ; 4.1±0.35km/h,脳血管障害者 ; 1.0±0.3km/hであった.HRは,健常高齢者では歩行前 ; 73.0±9.0 bpm,1回目歩行後 98.0±11.0 bpm,2回目歩行後 102.0±14.0 bpm,歩行1時間後 70.0±9.0 bpmであり,有意な変化は認められなかった.脳血管障害者では,歩行前 ; 72.0±11.0 bpm,1回目歩行後 104.5±21.0 bpm,2回目歩行後 110.7±25.0 bpm,歩行1時間後 76.4±12.0 bpmであり,有意な上昇を認めた(P < 0.05).Borg’s Scaleは,健常高齢者では,有意な変化は認められなかったが,脳血管障害者では,歩行前 ; 8.5±2.0 ,1回目歩行後 13.1±2.6 ,2回目歩行後 14.2±1.9 ,歩行1時間後 8.8±2.5 であり,有意な上昇を認めた(P < 0.05).IL-6濃度では,健常高齢者および脳血管障害者において歩行前後で有意な変化は認めなかった
【考察】
脳血管障害者では,HR,Borg’s Scaleが歩行後に有意な上昇を認めIL-6濃度の変化が期待されたが,今回,健常高齢者および脳血管障害者において20分間の歩行2回ではIL-6濃度に変化はなかった.これまでの報告で,運動負荷に起因する血中IL-6濃度の上昇は動員筋量,運動強度および運動時間により決定される事が分かっている.今回の結果から,脳血管障害者では麻痺により歩行では動員筋量が少なく,骨格筋の収縮により産生されるIL-6が分泌されなかったと考える.今後は,より筋収縮を伴う運動でのIL-6動態を検討する必要がある.
【理学療法学研究としての意義】
脳血管障害者において,IL-6の観点からでは,20分および40分での歩行では上昇しないと分かった.今後,IL-6濃度の変化する運動の検討も調査していく必要がある.

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© 2011 日本理学療法士協会
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