理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF2-053
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ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
血液がん(造血器腫瘍)治療がもたらす身体的影響に関するアンケート調査
林 大二郎八並 光信伊藤 晃範鷲頭 由宜後藤 詩織湯藤 裕美沼波 香寿子松浦 芳和中村 友唯香澤井 将太朗内田 学藤本 望
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抄録

【目的】
造血器腫瘍患者に対する治療は、化学療法、造血幹細胞移植、放射線療法などが行われるが、薬物の毒性や放射線による身体侵襲は、患者の体力や免疫力を低下させる。また、治療中の副作用として、少なからず嘔気、嘔吐、下痢などがあり、体力低下をもたらし、臥床時間の延長へとつながる。我々は第44回、第45回理学療法士学術大会において、造血器腫瘍患者の身体機能について、理学療法の必要性を報告してきた。今回、がん治療後の造血器腫瘍患者に対して、体力とADLを中心にアンケート調査を行い、入院後の体力やADLの主観的低下時期、リハビリテーション(以下:リハビリ)の状況を把握することを目的とした。

【方法】
対象は、2000年9月から2010年10月までの期間で治療を終えた造血器腫瘍患者32名(男性19名、女性13名)であった。疾患内訳は急性骨髄性白血病7名、慢性骨髄性白血病1名、急性リンパ性白血病5名、多発性骨髄腫4名、非ホジキンリンパ腫13名、ホジキンリンパ腫1名、成人T細胞白血病1名であった。質問項目は、性別、年齢、診断名、治療方法(移植の有無)、リハビリの実施状況、頻度、副作用症状、食事量、体力やADL低下の有無などで、無記名式アンケート調査を実施した。対象は、化学療法群(Chemo therapy:C群)、移植群(Hematopoietic stem cell transplantation:H群)の2群に分けた。集計は単純集計、クロス集計を行い、カイ2乗検定を行った。

【説明と同意】
対象患者には本研究の目的・方法、個人情報の保護、結果の公表に関し文章および口頭にて説明し、同意を得た。

【結果】
治療方法はC群:59.4%、H群:40.6%であった。リハビリの実施状況は理学療法士と実施37.5%(C群:31.6%、H群:46.2%)、自主的に実施40.6%(C群:47.4%、H群:30.7%)、非実施21.9%(C群:21.1%、H群:23.1%)であった。副作用でつらかったことに関しては嘔気が最も多く34.4%、次に腹部症状31.3%、筋力低下・倦怠感28.1%であった。体力の低下は全体の84.4%(C群:73.7%、H群:100%)が自覚し、体力低下の自覚時期は入院直後から1カ月以内で87.5%(C群:92.9%、H群:69.2%)が自覚していた。また、C群では体力低下時期は1クール後に64.3%が体力低下を自覚していた。H群では化学療法実施時よりも移植後に61.5%がより強く体力低下を自覚していた。体力低下の内訳としては、持久力の低下が最も多く81.5%、その他は下肢筋力低下44.4%、上肢筋力低下29.6%の順であった。ADLの低下は75%が自覚していると回答した。ADLの低下自覚時期は、入院直後から1カ月以内で83.4%(C群:91.7%、H群:75%)であった。ADL低下の内訳は、階段昇降が70.8%と最も多く、次いで歩行の58.3%であった。体力の回復は87.5%(C群:89.5%、H群:84.6%)が改善していると回答し、改善率は体力回復者の約6割が、80%以上改善した(C群:70.6%、H群:36.4%)と回答した。ADLの回復も87.5%が改善したと回答し、改善率はADL回復者の約7割が、80%以上改善した(C群:82.4%、H群:45.5%)と回答した。なお2群間の比較による有意差は認められなかった。

【考察】
今回の結果から、リハビリは「理学療法士と実施」が37.5%と低く「自主的に実施」および「非実施」が多いことが分かる。我々の先行研究からもリハビリの実施は体力改善に効果が期待できるため、体力低下の予防的リハビリという観点から、再検討すべきものと考える。副作用に関しては嘔気が最も多く34.4%であったが、全体的に副作用の影響は低く、近年の薬物療法のレジメン進歩や制吐剤の進歩が、著しいことがうかがわれた。体力低下の自覚は、C群で70%以上、H群で100%であり、治療そのものが、体力へ大きな影響を持っていることが確認された。体力低下時期は入院1カ月以内、1クール後に自覚している割合が高い。体力低下の種類は持久力が最も多く次いで下肢筋力、上肢筋力であり、ADL低下では階段昇降、歩行の順になっている。どちらも歩行と下肢筋力の要素が低下していることが分かる。したがって、リハビリプログラムも、持久力増強運動や抗重力筋を中心とした運動療法が重要と考える。体力、ADLの改善率はアンケート結果では高いが、健常者と比較すると先行研究からも疑わしく、退院後も定期的に客観的な評価ができるようなシステムの構築が重要であると考える。今回の結果からも、改めて造血器腫瘍患者に対しては入院初期から理学療法を実施することが重要と考えられた。

【理学療法学研究としての意義】
今年度よりがん患者のリハビリテーション料の算定が認められた。がんのリハビリテーションを構築するには、量的・質的データが不足しており、リハビリテーションに関する質的データから、そのニーズや効果を分析することが重要であると考える

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© 2011 日本理学療法士協会
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