理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-422
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ポスター発表(一般)
前足部荷重の安定化を意図したハイヒール用インソールがハイヒール着用時の足底圧分布および運動機能に及ぼす効果
大場 裕之馬場 孝祐西村 恵子伊藤 一也森本 将司朝日 大介貞松 俊弘久我 哲也秋山 寛治蒲田 和芳
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抄録

【目的】
ハイヒールは女性のファッションと社会生活において不可欠な履物である。しかしハイヒール着用が様々な足部・下肢の障害発生の原因になることは以前より指摘されてきた(倉ら1994)。
リアライン・インソール・フェム(GLAB社製、以下フェム)はハイヒール着用によって生じる足部、膝関節、骨盤、そして立位姿勢の問題を軽減することを目的として開発された。構造的な特徴として、一般的な内側アーチ、外側アーチに加え、小趾外転筋および第5中足骨と足底腱膜との間のスペースを埋める中央アーチ、そして中足骨頭の荷重を分散するためのつま先アーチという4つの構造を備えている。モニター調査によると足部の側方安定性の改善、足部の前滑りの軽減、つま先の靴による締め付け位の軽減、足部回外に連動する脛骨外旋の軽減、骨盤前傾の軽減と姿勢の安定、腰痛の軽減などの効果があるとされる。一方、その運動機能に及ぼす効果について客観的な効果は明らかにされていない。そこで本研究ではフェムの使用が足圧分布及び運動機能に及ぼす効果を検証することを目的とした。
【方法】
本研究は貞松病院倫理委員会の承認を得た横断研究である。包含基準は、20歳代、健常女性、5cmより高いハイヒールを着用しない者(月1回以下)とした。除外基準は手術歴を伴う下肢疾患、外反母趾、足部疾患の既往、足趾の変形や疼痛、膝関節の変形や疼痛、内科的リスクのある者などとした。
方法は、共通のハイヒール(ヒール高9cm)を用い、フェム無およびフェム着用の2条件において、それぞれ階段昇降時間(3回計測した平均値)、片足連続ジャンプ回数(3回計測し左右合計した平均値)、片脚立位時間(180秒を上限として、3回計測し左右合計した平均値)、win-pod(フィンガルリンク社)を使用し片脚立位時20秒での足底最大圧(1回計測し左右合計した平均値)、平均圧(1回計測し左右合計した平均値)の5項目とした。
統計解析には対応のあるt検定を用い、多重比較に対してBonferroniの補正を行った。補正前の有意水準はp<0.05とした。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき作成された文章により説明を行ない、同意が得られた者を対象とした。
【結果】
対象者8名(20歳~29歳)での結果を記載する。アンケート調査では被検者8名とも使用時の不快感を訴えるものはおらず、全員が安定性の向上を感じる、と答えた。片脚立位時の最大圧では、フェム無3193.1±211.9g/cm2、フェム有3006.1±183.4 g/cm2であり、フェムの有無により有意差を示した(p=0.003)。平均圧ではフェム無1183.5±201.6 g/cm2、フェム有1173.0±177.5 g/cm2(p=0.64)、階段昇降時間ではフェム無29.8±3.1秒、フェム有29.0±2.4秒(p=0.07)、片足連続ジャンプ回数ではフェム無40.8±20.6回、フェム有45.3±25.4回(p=0.08)、片脚立位時間ではフェム無60.1±36.9秒、フェム有77.2±40.8秒(p=0.11)であり、いずれも有意差はなかった。
【考察】
本研究の結果、フェムは不快感を生まず、主観的な安定性を改善、そして足部の最大圧を低下させる効果があることが判明した。その原因として、フェムの構造的特徴であるつま先アーチによる荷重分散効果とともに、外側アーチ、内側アーチ、中央アーチの3つのアーチサポートが足部の前滑りを防いだためと推測される。一方、その他の項目において統計学的有意差は認められなかった。
我々はフェムを着用することで、足部の立体的なアーチ構造が再構築され、また中足骨頭の荷重面積が拡大すると予想した。それにより、側方安定性の改善、脛骨回旋の軽減などが得られ、ハイヒール着用時の種々の運動機能においても改善が得られると予想した。主観的には効果を示唆するコメントが得られたが、測定した運動機能においては有意な変化を認めなかった。
再現性の高い測定のみを用いた本研究の内的妥当性については一定の信頼性がある。一方、外的妥当性については、日常的にハイヒールを使用しない者を対象としたため、逆に普段からハイヒールを使用している者においては異なる結果となる可能性がある。本研究の限界として、サンプルサイズの不足が挙げられ、運動機能の結果に関してβエラーが混入している可能性も高い。本研究の結論として「フェムは不快感を生まず、主観的な安定性を改善し、そして足部の最大圧を低下させる効果がある」とする。

【理学療法学研究としての意義】
ハイヒール着用時にフェムを装着することで足底最大圧が低下する。このことは荷重の分散を示し、ハイヒール着用時における前足足底部の疼痛減少の効果が期待される。また着用時に不快感を訴えるものは一人もおらず、全員が安定性の向上を感じると答えたことから、その有用性は高いと考えられる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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