理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-424
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ポスター発表(一般)
地域在住高齢者における超音波計測による大腿前面筋厚・筋硬度の特性
河合 恒大渕 修一小島 基永新井 武志光武 誠吾
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抄録

【目的】近年、超音波計測によって筋量や筋線維の状態を簡便に定量化できるようになった。超音波計測の応用は、虚弱高齢者にとってはリスクが伴う膝伸展筋力の測定に代用できる可能性がある。しかし、超音波計測から得られる指標である筋厚や筋硬度については、高齢者の男女別、年齢別の特性を大規模データに基づいて記述した研究はまだない。そこで本研究では、地域在住高齢者の大規模データにより、男女別、年齢別の筋厚・筋硬度の特性を記述し、その他の運動機能評価指標との関係を調べ、筋厚や筋硬度が地域在住高齢者の膝伸展筋力推定に有用な指標か検討することを目的とした。
【方法】対象は、65歳以上の自立歩行可能な地域在住高齢者で、包括的な生活機能調査に参加した者のうち、要介護認定を受けていない男性152名(67~91歳)、女性779名(65~91歳)であった。これらの対象の大腿前部の筋厚(以下、筋厚)を、超音波画像計測装置(みるキューブ,グローバルヘルス社製)を用いて計測した。筋硬度指標の筋厚変化率は通常時と2kgf荷重時の筋厚の差を、通常時の筋厚で除して求めた。体脂肪率、膝伸展筋力、握力、通常・最大歩行速度などの運動機能評価指標も測定した。統計解析は、年代を65~74歳、75~89歳、90歳以上の3群に分け、筋厚、筋厚変化率、膝伸展筋力の年代による変化を一元配置分散分析によって検討した。さらに、筋厚、筋厚変化率と他の運動機能評価指標との関係をPearsonの相関係数を用いて調べた。統計学的な有意水準は5%とした。
【説明と同意】すべての対象は、調査内容の説明を受け、書面による調査参加への意志を示した。尚、この調査計画は、機関の倫理委員会において審議され、承認された。
【結果】男性の65~74歳の筋厚平均値は19.3mmであったが、75歳~89歳では15.4mmと減少した(p<0.05)。しかし、90代以上では有意な減少は認められなかった。女性では65~74歳の筋厚平均値は16.5mm、75~89歳で15.1mm、90歳以上では11.0mmと年齢とともに減少した(p<0.05)。一方、筋厚変化率は、女性においてのみ年齢による統計学に有意な変化が認められ、65~74歳の筋厚変化率平均値は24.6%、75~89歳で27.6%と年齢とともに筋厚変化率が増大し、加齢により筋が軟化する傾向がみられた(p<0.05)。膝伸展筋力については、年代によって男女ともに統計学的に有意に低下した(p<0.05)。さらに、筋厚は、男女ともに、体脂肪率(男性:r=0.472、p<0.01、女性:r=0.440、p<0.01)、握力(男性:r=0.183、p<0.05、女性:r=0.127、p<0.01)、膝伸展筋力(男性:r=0.228、p<0.01、女性:r=0.230、p<0.01)などの指標と統計学的に有意な相関が認められた。筋厚変化率は、体脂肪率(男性:r=-0.174、p<0.05、女性:r=-0.121、p<0.01)、膝伸展筋力(男性:r=-0.177、p<0.05、女性:r=-0.103、p<0.01)と統計学的に有意な相関が認められた。筋厚、筋厚変化率ともに、歩行速度とは有意な相関は認められなかった。
【考察】男性では筋力が低下しても筋厚や筋硬度が変化しないことがあることが示唆された。これには筋力の低下は筋量の減少だけではなく、筋線維タイプや神経機能の変化が影響している可能性が考えられた。女性においては、筋厚や筋硬度は加齢による筋力低下を反映しており、地域在住高齢者の膝伸展筋力の推定に有用な指標の一つであると判断することができた。
【理学療法学研究としての意義】虚弱高齢者に対して膝伸展筋力の測定を実施する際には、低下した身体状況の影響から、最大の筋力発揮を求める際に、関節周囲に一時的な負荷が加わり、関節組織に損傷を与える危険性がある。また、十分な指導を行った場合でも測定中に被験者が一時的に呼吸を止めてしまい、バルサルバ効果による血圧の急激な上昇と下降のため循環器系へ負担を与える危険もある。従って、虚弱高齢者に対して従来よりも安全に膝伸展筋力を推定できる指標を、超音波計測から得られる指標から検討した本研究は、理学療法学研究として意義がある。

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© 2011 日本理学療法士協会
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