理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-427
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ポスター発表(一般)
伸張反射による関節拘縮の発生予測
佐藤 雄也阿部 光今枝 裕二小倉 正基宿野 真嗣高野 裕子富田 正身吉際 俊明
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キーワード: 拘縮, 不動, 伸張反射
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抄録

【目的】
当院は736床の療養病床で、約8割が入院したまま最期を迎える。患者は入院前、或いは入院後の諸機能低下により活動量が減少し、不動に至るケースが多く、その過程では四肢関節の拘縮が発生することが少なくない。そのため数年前から拘縮への対応を検討し、2007年からは予防対策としての関節運動を日常ケアの中に取り入れた。その結果、当院の基準ではあるが、開始当初34.4%だった保有率は、22.0%(2010.10月)にまで減少した。しかし、同じ不動状態であっても拘縮の発生には個人差があるため、さらに予防効果を高めるためには発生しやすい患者にマンパワーを集中させる必要があると考えた。そこで臨床での体験や先行文献などから「拘縮が発生しやすいか否かは伸張反射で予測できる」という仮説の検証を行い、昨年の岐阜大会にて「伸張反射が拘縮発生の予測因子の1つとなる傾向がある」と報告した。今回は対象者を拡大(昨年の対象者条件から「膝伸展制限角度-30°未満」を除外)し、伸張反射と拘縮発生・進行(以下、発生・進行)の関係性を検証した。
【方法】
障害高齢者の日常生活自立度A~Cレベルの患者332名(平均年齢88.0歳 男性81名 女性251名)を対象に、週1回の頻度で左右の内側ハムストリングスの腱を叩打(以下、伸張反射)と膝関節伸展関節可動域の検査測定を行った。そして332名中の自立度Cレベルの患者167名(334関節)において期間内に伸張反射に亢進(以下、亢進)があったものを亢進群(121関節)、みられなかったものを非亢進群(213関節)とした。それぞれ制限10°以上の悪化を発生・進行とし、2群を比較した。期間は平成22年3月~8月の6ヶ月間とした。統計学的処理は、カイ2乗検定(危険率5%以下を有意差ありとした)とリスク比を用いて比較検討した。
【説明と同意】
本研究は院内で検討し承認を受け、対象者とその家族には事前に説明し了承を得て実施した。
【結果】
亢進群では121関節中12関節、非亢進群では213関節中20関節において伸展制限の発生または進行があった。発生・進行率はそれぞれ9.9%と9.4%でカイ2乗値は0.02、リスク比は1.06であった。亢進率については36.2%であった。
【考察】
今回、対象者を拡大し伸張反射と拘縮発生・進行の関係性を検証したが、カイ2乗値とリスク比から考えると、仮説を立証できる有意差は得られなかった。しかし、亢進群の12関節中11関節においては亢進がみられてから発生・進行していた。このことから亢進が拘縮発生・進行の前兆となっている可能性があるのではないかと考えられる。伸張反射は高齢者では一般的に減弱・消失すると言われており、今回の検証においても亢進率は36.2%であった。亢進していないにもかかわらず発生・進行がみられた20関節(14名)について、立位保持が困難でベッド上で過ごす時間が長く、またリクライニング型車椅子で離床する患者が多かった。このような特徴からトランスファー時の肢位変換がなく、一日の中での関節運動がオムツ交換時の膝関節屈伸運動のみで完全な不動状態ではないが関節運動回数が少ないために発生・進行がみられたのではないかと考えられる。
拘縮には様々な要因が考えられるが安静・不動による拘縮は予防可能なものであるため、今後、現状亢進していない関節、発生・進行していない関節についても検査測定を継続し、より効果的・効率的に拘縮を予防していく方法を模索していきたいと考えている。
また当院のリハビリテーションの目標でもある「日々を、季節を楽しんでいただく」そして最終的に「美しい姿で最期を迎えていただく」ためにも、より早期に筋の状態を察知し、拘縮を予防していくことは必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
維持期・終末期の理学療法として患者にどう関わるべきか、現状では明確な指針はない。高齢者の身体機能は、個人差はあるものの必ず低下していくが、誰もに必ず訪れるその時期に季節を感じ、日々を楽しんで過ごしていただくこと、また人生の最期を美しい姿で迎えていただくことを念頭に置き、理学療法がどのようなことができるかを模索していく必要があると考える。そのために高齢者の機能について、臨床でこそ収集できるデータを元に傾向をつかみ、個々の状態に合った、より効果的・効率的な対応を考えていきたい。

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© 2011 日本理学療法士協会
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