抄録
【はじめに】
平成18年4月から介護予防を重視した改正介護予防制度が開始され、「閉じこもり予防・支援」が介護予防事業のひとつに据えられた。閉じこもりとは、「日常生活における活動範囲が屋内にほぼ限られている状態」(新開ら,2000)としている。Life-Space Assessment(LSA)は、個人の生活の空間的な広がりにおいて移動を評価する指標である(Baker,2003)。地域高齢者においてはLSAの得点が低い、すなわち生活空間が狭い人ほど生活機能が減弱していると報告(Murata,2006 Barnes ,2007)している。在宅介護を継続していくことは、閉じこもり(生活空間)、身体・生活機能、介護者の介護負担感の3者関係が重要であり、これらの関連性を研究した報告がない。本研究では、当事業所訪問リハビリテーション(訪問リハ)サービス提供地域での訪問リハ利用者の生活空間・身体・生活機能、介護者の介護負担感との関連性について研究することを目的とした。
【方法】
対象は当事業所訪問リハを利用している利用者・その主介護者各153名とした。調査項目は、利用者の性別、年齢、罹患疾患、要介護度、認知症老人の日常生活自立度判定(認知度)、Barthel index (BI)、LSA 、3ヶ月以内の転倒有無(転倒有無)、訪問リハ以外の福祉・医療サービス利用の有無(サービス利用)の9項目とした。介護者において主介護者の性別、年齢、続柄、健康状態、夜間睡眠時間、副介護者の有無、介護年数、介護負担感(J-ZBI-8)の8項目とした。統計処理は、LSA得点の中央値を境に生活空間が広い群(LSA広群)、生活空間が狭い群(LSA狭群)の2群に分け、LSA広群とLSA狭群の比較にx2検定、Mann-WhitneyのU検定、対応のないt検定を用いた。有意水準はいずれも5%未満とした。
【説明と同意】
訪問リハ利用者及びそのご家族、主介護者へ本研究の主旨について口頭及び紙面にて十分に説明し、同意を得た上で聞き取り調査を実施した。
【結果】
利用者では要介護度においてLSA広群で支援2(28%)、介護2(16%)の者が多く(p<0.05)、介護4、5が全体の15%であった。LSA狭群で介護4(29%)と5(27%)の者が多く(p<0.05)、支援2、介護1と2が全体の30%を占めていた。認知度においてLSA広群で自立の者(47%)が多く(p<0.01)、2、3、4が全体の35%であった。LSA狭群で3(19%)、4(28%)の者が多く(p<0.01)、自立の者が全体の26%であった。BIではLSA広群が有意に高く(p<0.05)、サービス利用に関して、LSA広群で訪問リハと施設系利用の割合が高く(p<0.01)、LSA狭群で訪問リハのみの利用が多かった(p<0.05)。その他、性別、年齢、罹患疾患、転倒有無に関して差は認められなかった。
介護者では、LSA狭群において利用者との続柄で娘が多く(p<0.05)、副介護者の居ない者が多かった(p<0.05)。介護年数においてLSA狭群で長く(p<0.05)、J-ZBI-8得点はLSA狭群で有意に高かった(p<0.05)。その他、性別、年齢、健康状態、睡眠時間において差は認められなかった。
【考察】
LSA狭群に関して重度介護度の者が多く、認知度が低く、BIの低い者が多かったことは先行研究と同様の結果となり、生活機能障害との関連が示唆された。また、LSA広群にサービス利用で訪問系サービス以外に「外出」する施設系サービスを利用する者が多く、LSA狭群では訪問系サービスのみ利用する者が多かったことからLSA得点に関連していると考えられた。介護負担感についても、先行研究において報告されている生活機能障害や介護代替者が居ないこと、介護年数が長いことや訪問系サービスが主体になっていることがJ-ZBI-8得点の高値に関連していると考えられることから、まず施設系サービスを積極的に導入していくことが重要であると考えられる。そのため、今後は生活機能が高いがLSA狭群の者に対して施設系サービス利用の提案をしていくことや主介護者の介護負担感の軽減に向けた取組みが生活空間拡大につながるか確認する必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回、生活空間を拡大させ、社会参加や外出機会の支援をしていくという訪問リハの役割を再認識すると共に、身体・生活機能と生活空間の関連性のみでなく介護者の介護負担感との関連性があることが示唆された本研究より得られた知見は有用であり、地域リハビリテーションを展開していく上での一助になると考えられる。