理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OS3-070
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専門領域別口述発表
経皮的電気刺激の痙縮抑制効果と歩行・バランス機能への影響
福井 直樹福井 尚美松井 有史岩城 隆久北裏 真己
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キーワード: 経皮的電気刺激, 痙縮, 歩行
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抄録

【目的】
近年,脳卒中片麻痺患者の痙縮を改善する有効な手段として経皮的電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS) が注目されている.先行研究では,TENSが脳卒中片麻痺患者のヒラメ筋H反射興奮性を抑制したことを報告している(Levin,1992).また,Takeogluら(1998)は100HzのTENSを8週間実施することにより痙縮抑制効果を認めている.同様に本邦における脳卒中ガイドライン2009でも,TENSは痙縮抑制に対する有効な物理療法として紹介されている.しかし,国内のTENS研究は散見される程度で,長期的効果を検討しているものは少ない.
本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者に対して3週間のTENSを実施し,痙縮抑制効果と歩行・バランス機能に対する影響を調査した.

【方法】
脳卒中発症後1年以上が経過しており,歩行可能な外来通院中の片麻痺患者2名{症例1:57歳男性,右下肢Brunnstrome Recovery Stage(Brs):IV,症例2:61歳女性,右下肢Brs:III}を対象とした.
研究デザインはクロスオーバーデザインを採用し,症例1を「A-B」,症例2を「B-A」の順に実施した.Aは基礎水準期として3週間の理学療法を行い,Bは操作導入期として,3週間の理学療法に加えてTENSを実施した.TENSにはIntelect ADVANCE COMBO(Chatanooga社製)を使用し,刺激部位は総腓骨神経とした.電極設置の際,皮膚のインピーダンスを減少させる為,アルコール綿にて前処置を行った.刺激パラメーターは非対称性二相性矩形波,位相持続時間80μsec,周波数100Hz,振幅変調なし,100%デューティサイクルとした.電流強度は約15mAの「くすぐられるように感じる」程度とし,刺激時間は30分とした.評価項目は,足関節背屈Range of Motion(ROM),modified Ashworth scale(MAS),10m最大歩行速度,Timed Up and Go test(TUG),Functional Reach(FR)とし,各期前後に測定を実施した.

【説明と同意】
参加者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の概要と侵襲,公表の有無と形式,個人情報の取り扱いについて紙面と口頭にて説明を行い,研究参加同意書をもって同意を得た.

【結果】
基礎水準期では,各評価項目の値は変化しなかった.操作導入期前後の比較では,症例1は10m最大歩行速度が26.33秒から22.68秒に,TUGでは28.67秒から24.4秒に,FRは19cmから22.2cmに改善したが,背屈ROM,MASでは変化がなかった.
症例2では,10m最大歩行速度が48.13秒から36.46秒に,TUGは60.83秒から43.91秒に,FRは14.3cmから17.5cmに,MASは2から1へと改善したが,背屈ROMでは変化がなかった.
なお,両症例ともTENSによる電気熱傷や疼痛の訴えなく,全期間を通じて安全に実施することができた.

【考察】
本研究では,脳卒中片麻痺患者を対象としてTENSを施行し,痙縮抑制効果と歩行・バランス機能に対する影響を調査した.症例1ではMASに変化は認められなかったもののクローヌスが消失し,10m最大歩行速度・TUG・FR共に17%程度の改善がみられた.症例2ではMASが2段階改善し,10m最大歩行速度だけでなく,TUG・FRも28%程度向上した.また介入後3週間の持続効果を認めた.MASについては,症例1では変化が認められなかったもののクローヌスが消失し,症例2では2段階の改善がみられたことから,TENSが痙縮に対して影響を与えたことが示唆される.また,両症例で10m最大歩行速度やTUG,FRに改善が認められた.10m最大歩行速度やTUGについては,TENSによる下腿三頭筋痙縮抑制効果により,歩行時立脚初期から中期にかけての脛骨前傾が促された結果,改善が認められたことが考えられる.また,FRについても,下腿三頭筋痙縮抑制が足関節戦略に影響を与え,改善したと推察できる.Shamwayら(2010)も同様にTENSが歩行速度や歩行持久性,TUGを改善させることを報告しており,今後はサンプル数の増大を含め比較対象試験を実施する必要がある.

【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者に対するTENSは,安静座位時や自主トレーニング中に実施できるため患者の身体負荷が少なく臨床導入しやすい.また,本研究結果を含め先行研究からも痙縮抑制効果が明らかとなったため,今後の理学療法への応用が期待される.

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© 2011 日本理学療法士協会
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