理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-463
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ポスター発表(一般)
危険認知能力の客観的評価
診療場面画像を用いた認知課題による検証
吉田 晋堀本 佳誉石井 邦子川城 由希子田代 尚範宮崎 敦子笠置 泰史
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抄録
【目的】臨床現場におけるアクシデント、インシデントは重要な問題である。しかし、そのアウトカムは事故件数の集計のようなマクロ的なものや事例検討、アンケート調査といった主観的ものが多い。しかし、実際の対策としては危険予知トレーニングに代表されるような個人の危険予知能力を向上させるための介入も多くみられる。そこで本研究では、個人の危険認知能力が客観的に測定可能か検証した。

【方法】被験者は臨床経験5年以上の理学療法士(以下Expert群)、臨床経験1年未満の理学療法士(以下Freshman群)とした。課題は日常の理学療法業務場面、特に転倒・転落を想起しやすい起居動作、移動動作練習場面の画像をPCの画面上に2秒間隔でランダムに提示し、危険と安全を判断させた。回答はボタン押し課題により行い、正解率と画像提示からボタン押しまでの反応時間を測定した。

【説明と同意】被験者には事前に実験内容を説明し、同意を得たうえで実験を行った。本学倫理委員会の審査も経ている。

【結果】全体の正解率はExpert群89.46±5.90%、Freshman群72.08±13.68%でExpert群が有意に高かった。場面ごとでは、安全場面がExpert群89.84±9.23%、Freshman群72.53±19.99%、危険場面がExpert群89.10±8.63%、Freshman群71.67±15.94%で 安全、危険場面ともにExpert群の正解率が有意に高かった。反応時間はExpert群1400.75±314.57msec、Freshman群1247.58±135.73msecで有意差を認めなかった。場面ごとでは、安全場面がExpert群1328.05±248.43msec、Freshman群1303.79±184.50msec、危険場面がExpert群1480.55±415.50msec、Freshman群1191.37±146.24msecで危険場面での反応時間がExpert群で有意に遅延した。

【考察】Freshman群に比べExpert群の正解率が高かったことは、経験によりで危険認知能力が向上することを示唆する。逆にExpert群の危険場面認知の反応時間が延長したことは、ひとつの場面から多くの因子を見出そうとした結果とも考えられ、経験による成長の証しとも考えられる。もちろんヒューマンエラーは事故当事者個人の特性だけの問題ではなく、SHELモデルに代表されるように事故当事者を取り巻くソフトウエア、ハードウエア、環境、ライブウエアといった多くの要因が関与しており、システムとして考える必要があるのは言うまでもないが、今回の結果はその中の個人の要素を客観的に評価できる可能性を示唆する。

【理学療法学研究としての意義】学内や臨床現場で行われているリスク管理教育の個人についての変化を客観的に評価できる可能性を示した。
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© 2011 日本理学療法士協会
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