理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-467
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ポスター発表(一般)
行動科学の理論に基づいたロコモーショントレーニング(ロコトレ)の実施率についての検討
細井 俊希新井 智之藤田 博曉石橋 英明
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キーワード: 行動変容, 運動, 継続
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抄録

【目的】ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は、2007年に日本整形外科学会により提唱され、高齢者の要介護や寝たきりを来たす要因として注目されている。ロコモの特徴は、医療機関への受診を促すのではなく、自分で症状を把握し、自分で運動するよう、セルフチェック(ロコチェック)、セルフトレーニング(ロコトレ)を推奨しているところである。本研究では、運動の継続に有効であるとされる行動科学の理論に基づいた運動介入「ロコトレ」が、運動の継続につながっているかを検討することを目的とした。
【方法】対象は、地域在住の高齢者で、本研究に関する同意が得られた76名を対象とした。開始時に、行動科学の理論に基づいた運動プログラム「ロコトレ」を指導した。ロコトレは、ロコモーショントレーニングの略で、石橋らにより、ロコモに対し実施した2か月間のトレーニングでの有効性が明らかにされている。本研究では、指導の際、括弧内に示した運動の継続に有効であるとされる行動科学の理論に基づいたアプローチを取り入れた。トレーニングは、スクワット、片足立ちの2種類の運動で、環境によるバリアの影響を受けないように、すべて屋内でも行えるものとした(社会的認知理論:バリア要因の排除)。開始前に、ロコトレの理論的背景や効果について十分説明し(社会的認知理論:結果期待の向上)、目標設定を行った(目標設定理論)。また、トレーニングノートを配布し、実施回数や頻度をセルフモニタリングし(自己知覚理論)、さらに、規定された運動以外にも自分が好きな運動を組み合わせて行い記入するよう指導した(自己決定理論)。加えて、楽しく運動できるよう、歌に合わせてトレーニングするよう指導した。運動機能については、測定ごとに結果のフィードバックを行い、また、医師および理学療法士による健康相談なども適宜受け付けた(社会的認知理論:セルフエフィカシーの向上)。主要評価項目は、運動の継続率についての調査とし、指導した1年後に調査表を用い調査した。調査の内容は、調査時から過去1か月を振り返り、ウォーキングやその他の運動、およびロコトレの実施頻度を、5つの選択肢(ほぼ毎日・週3回以上・週2回・週1回・ほとんどしていない)から選ぶこととした。介入前に7項目のロコチェックを行い、ひとつでも当てはまるものがある場合を「ロコモ」とし、ロコモ群と非ロコモ群の2群に分け、運動実施率をカイ二乗検定にて比較した。統計学的処理は、PASW Statistics 18を使用し、危険率は5%未満とした。
【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した。本研究開始前に、研究の目的、方法、研究への参加は自由であること、一度研究への協力に同意した後でもいつでも撤回できること、研究へ参加しない場合や同意を撤回した場合でも不利益を受けることがないことなどを説明し、署名をもって同意を得た。
【結果】対象者全員が、週1回以上、何らかの運動を実施しており、半数以上(55.3%)はほぼ毎日運動を実施していた。ロコトレ実施率は94.7%で、ほぼ毎日実施していたのは38.2%であった。ロコモ群では非ロコモ群に比べ、有意にほぼ毎日ロコトレを実施していた(p=0.007)。
【考察】厚生労働省の「平成20年国民健康・栄養調査結果の概要」によると、70歳以上で運動習慣のあるものの割合は36.6%である。また、Forcanら(2006)によると、自主トレ指導した患者が週1回以上の自主トレを4週間継続した割合は63.4%であったと報告している。本研究対象者は、全員が、週1回以上、何らかの運動を行っており、行動科学の理論に基づいた運動介入が、継続率の向上に寄与した可能性を示唆するものであった。また、ロコモ群は非ロコモ群に比べほぼ毎日ロコトレを行っていたことから、ロコチェックを用いたセルフチェックにより、自分が「ロコモ」であると自覚することが内発的動機づけとなり、運動の習慣化や継続につながっていると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】行動変容理論に基づいた運動介入は、運動を習慣化し、継続率の向上に寄与するものと思われる。本研究の結果は、介護予防事業での健康体操指導や、退院時に自主トレ指導する際の患者教育を行ううえで、運動の継続率を高めるアプローチの方法を示唆しており、地域リハビリテーション分野や維持期リハビリテーション分野において大変意義深いといえる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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