理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 口述
膝関節肢位の違いによる内側広筋の筋線維方向について
田中 和彦石田 紘也上村 直也川本 智恵吉村 孝之上谷 友紀
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Aa0137

詳細
抄録

【はじめに、目的】 大腿四頭筋は四つの筋より構成され、膝関節の機能としての支持性と可動性の両方を担う重要な組織である。特に臨床上、内側広筋の萎縮は膝関節自動伸展不全や膝蓋骨不安定症との関連があり、その運動療法に関連する報告を散見するが、その対応に苦慮することが多い。  今回、内側広筋の筋線維角を膝関節肢位によって検討するとともに、その得られた知見より運動療法への展開ついて若干の考察を加え報告する。【方法】 対象は本研究に同意を得た健常成人男性10名(平均年齢26±7歳、身長173.4±5.9cm、体重61.2±6.5kg)の右膝関節とした。膝関節に既往のある者は除外した。被検者を端座位とし、超音波診断装置(東芝メディカルシステム社製 Xario)を用いて内側広筋の筋線維を描出した。測定肢位は膝関節伸展位、45°屈曲位、90°屈曲位とし、測定部位は内側広筋の最も遠位部(以下、膝蓋骨内側縁)、膝蓋骨上縁、膝蓋骨上5cm、および10cmの高さの内側広筋とした。 内側広筋の筋線維の描出方法は膝蓋骨内側縁では膝蓋骨上縁レベルの内側広筋に対してプローブを短軸にあて、そこから遠位に移動することで内側広筋の最も遠位部を描出させ、その部位を中心にプローブを回転させながら内側広筋の筋線維が一直線上なる画像を描出した。他の3つは膝蓋骨上の各高さにプローブを短軸にあて、そこから内側に移動することで大腿直筋と内側広筋の筋間中隔を描出させ、筋間中隔を中心にプローブを回転させながら内側広筋の筋線維が一直線上なる画像を描出した。その際のプローブのなす直線と下前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結ぶ線との角度を前額面と矢状面よりゴニオメーターを用いて計測した。計測は3回実施し、その平均値を用い、各測定部位における膝関節肢位間の筋線維角を比較検討した。統計処理にはSPSS(17.0)を用いて一元配置の分散分析にて有意水準5%とした。さらに級内相関係数ICC(1,3)、ICC(2,3)にて信頼性を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た.【結果】 計測方法における級内相関係数は検者内で0.91、検者間で0.82と高い信頼性を示した。前額面における内側広筋の筋線維角は膝関節伸展位、45°屈曲位、90°屈曲位の順にて膝蓋骨内側縁で平均45.9±7.2°、44.7±5.5°、44.5±4.1°であり、有意差を認めなかった。膝蓋骨上縁で平均45.1±6.3°、40.1±6.0°、40.0±6.2°であり、有意差を認めなかった。5cm上部で平均39.1±4.3°、35.2±3.6°、27.8±5.9°であり、伸展位と45°屈曲位に対して90°屈曲位で有意に鋭角であった。10cm上部で平均35.9±3.5°、28.6±4.8°、24.9±4.9°であり、伸展位に対して45°屈曲位と90°屈曲位で有意に鋭角であった。矢状面上において同様に膝蓋骨内側縁で平均47.9±6.7°、46.8±8.3°、41.6±5.5°であり、有意差を認めなかった。膝蓋骨上縁で平均29.6±5.6°、25.7±6.7°、22.3±5.0°であり、有意差を認めなかった。5cm上部で平均20.3±6.5°、16.6±3.6°、11.0±5.4°であり、伸展位と45°屈曲位に対して90°屈曲位で有意に鋭角であった。10cm上部にて平均16.9±4.1°、12.0±3.3°、9.0±3.3°であり、伸展位に対して45°屈曲位と90°屈曲位で有意に鋭角であった。【考察】 諸家による内側広筋の筋線維角では、林らが解剖用遺体を用いて腱膜板に最も近位で付着する筋線維角は25.6°、膝蓋骨に最も遠位で付着する筋線維角は40.8°と報告しており、Liebらは、切断肢を用いて一般的に呼称される内側広筋の筋線維角で15~18°、斜走線維で50~55°、と報告している。今回の我々の報告との違いは対象を屍体ではなく、成人生体としたために生じたと考えた。さらに我々は伸展位だけでなく、膝関節の各肢位で検討したことで、伸展運動時における内側広筋の筋線維角の変化を知ることができたと考えた。内側広筋の筋収縮方向は膝関節の伸展運動方向と一致していないために内側広筋の筋収縮により生じる張力は前額面上で伸展成分と内側成分に、矢状面上で内側成分と深層成分に分散する。これらの成分は筋線維角から捉えることができる。各肢位における内側広筋の筋線維角の比較より膝蓋骨内側部と膝蓋骨上縁部では全肢位にて筋線維角の変化がなかったため、各成分張力の変化も認めないと考えられる。膝蓋骨5cm上部では90°屈曲位にて鋭角を示したことから伸展成分の増大、内側と深層成分の減少、膝蓋骨10cm上部では45°屈曲位にて鋭角を示したことから伸展成分の増大、内側と深層成分の減少が考えた。 【理学療法学研究としての意義】 内側広筋の運動療法では、内側広筋を分けて捉え、その部位での筋線維角の特徴を踏まえた上で運動に最適な膝関節の肢位や運動範囲を考慮することで、内側広筋の各張力成分に対応した筋収縮を高めることができると考えた。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top