抄録
【はじめに、目的】 陳旧性前十字靭帯(ACL)損傷膝についてはこれまで運動学的、力学的変化や筋活動の変化などから多くの報告がされている。しかしACL損傷患者の歩行を足圧分布の観点から検討した研究は少なく、さらに損傷側を利き足側と軸足側とに細分し検討した研究は稀である。また足圧分布測定装置を用いた研究ではその評価項目が一般化されておらず、統一した見解が得られにくい現状にある。そこで、本研究では足圧分布測定装置での代表値である足圧中心(COP)軌跡を利用した簡便なパラメーターを用い、ACL損傷患者の歩行時の足圧分布を利き足側損傷と軸足側損傷とで比較検討することを目的とした。【方法】 2010年7月から2011年7月までに、秋田県内の調査協力病院8施設にACL再建術の目的で入院した片側の陳旧性ACL損傷患者24名(ACL損傷群:男性13名、女性11名)を対象とし、ACL再建術の前日、または2日前に調査した。被験者の利き足を通常時にボールを蹴る側、反対側を軸足と定義しACL損傷群を利き足側損傷群と軸足側損傷群に細分類した。また対照として健常若年者22名(健常群:男性13名、女性9名)を調査した。足圧分布の測定には足圧分布測定システムF-scan(Nitta社製)を用い、対象者の歩行時足圧分布を測定した。歩行路は8mとし両端に各1mの助走路を設け、中間部の6mの範囲で得られた下記の項目のデータを平均化して用いた。測定項目はCOP軌跡前後長比(%COP) 、COP軌跡移動範囲面積比(%CLA)、COP軌跡最大横振幅値(GSA)の3項目とした。%COPはCOP軌跡開始地点と終了地点の前後方向の距離(mm)を足長(mm)で除した値とした。%CLAはCOP軌跡開始地点と終了地点を結ぶ直線(a)とCOP軌跡で囲まれる面積を画像処理ソフトウェアImage J(NIH)を用い算出し、片脚立位時の足底部接地面積(mm2)で除した値とした。GSAは直線(a)と、COP軌跡の0.03秒毎のプロット点の距離の最大値とした。統計解析はACL損傷群での健側と損傷側の比較と、健常群での利き足と軸足の比較は対応のあるt検定にて行った。ACL損傷群と健常群間の比較では正規分布の有無によって2標本t検定か、Mann-Whitneyの検定を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は秋田大学大学院医学系研究科倫理委員会にて承認を得て実施した。またヘルシンキ宣言に従い、対象者には事前に本研究の内容を十分に説明し、書面にて研究参加の同意を得た上で実施した。【結果】 軸足側損傷群では損傷側の%COPが0.63±0.08、%CLAが0.20±0.09、GSAが2.29±1.76と、健常群の軸足側(%COP:0.68±0.06、%CLA:0.37±0.20、GSA:5.27±4.80)に比べ有意に小さかった(p<0.05)。軸足側損傷群での損傷側と健側との比較では差がみられなかった。利き足側損傷群では同一被験者間での左右の比較でも、健常群の利き足側との比較でも差がみられなかった。また健常群で軸足側の%CLAは0.37±0.20、利き足側の%CLAは0.52±0.24と、軸足側で低値を示した(p<0.01)。【考察】 今回用いた%COP、 %CLA、GSAは簡便に測定できるパラメーターであり、正常歩行と異なるCOP軌跡を検出することが可能で、陳旧性ACL損傷のうちの軸足側損傷群でCOP軌跡が短く(%COPの低値)なり、かつより直線的(%CLAの低値、GSAの低値)になるという結果を容易に得ることができた。これらのパラメーターの他の下肢疾患への応用が期待される。【理学療法学研究としての意義】 足圧分布測定装置による評価では多様なパラメーターから有用性の高いものを厳選し、効率的に病態を判断することが必要である。今回提示したCOP軌跡を中心としたパラメーターは簡便で、陳旧性ACL損傷患者のような検知しがたい異常歩行を数値化することができた。今後はACL損傷患者だけでなく、他の下肢疾患にも足圧分布から見た解析法を確立し、障害像をより明らかにし、より効果的なリハビリテーションへと繋がることが期待される。