理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
不安定床面が歩行開始動作に及ぼす影響
─運動学および力学的因子について─
伊藤 寛和神先 秀人南澤 忠儀井上 千絵美
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p. Ab0416

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抄録
【はじめに、目的】 高齢社会において転倒は大きな問題となっており,マットや布団などの不安定床面は高齢者の歩行中の転倒要因として挙げられている.高齢者の転倒を考えるには定常歩行に至るまでの歩行開始の評価がより重要と考えられるが,不安定床面が歩行開始動作に与える影響に関する報告は見当たらない.したがって,本研究においては不安定床面における歩行開始動作に着目し,(1)歩行開始時の関節運動,筋活動,身体重心移動の特徴を明らかにすること.(2)同動作時に姿勢制御のための特徴的な筋活動が生じているかを検討することを目的とした.【方法】 対象は,関節障害などの既往のない健常成人男性10名,平均年齢21歳(20‐22歳まで),身長171.7±5.8cm,体重61.2±4.5kgとした.動作解析には三次元動作解析装置(VICONMX)を使用した.赤外線反射マーカーセットはPlug-in-gait全身モデルを使用し,サンプリング周波数60Hzで経時的にマーカー座標を記録した.筋活動は表面筋電計を使用し,サンプリング周波数は1KHzとした.被験筋は前脛骨筋,腓腹筋外側頭,外側広筋,大腿二頭筋の4筋とし,いずれも右側に貼付した.床反力計上から歩行開始動作をマットなし,マットありの2条件で各3回行った.マットレス(ウレタンフォーム製,厚さ12.0cm,硬度100N,復元率93%)は床反力計1台につき1枚のマットを設置した.歩行開始時の立位姿勢は歩隔を8cm,足部外転 10° とし,数回練習を行った後,任意の速度で合図とともに左脚から歩き出した.歩行開始後は歩行を 5-6 歩行い,歩行開始から 2歩までを記録した.足圧中心の遊脚側への移動開始から左踵接地までを1歩目,左踵接地から右踵接地までを2歩目として相分けした.解析項目は歩幅,歩隔,重心移動幅,動作中の下肢関節角度最大値・運動範囲,下肢関節モーメント最大値である.筋活動に関しては,動作全体を通しての積分値(IEMG),および動作中の平均筋電位を最大収縮時に対する比率(%MVC)として算出した.統計処理は2条件間における各パラメータの3回の平均値を用いて,対応のある t 検定もしくは Wilcoxon 符号付順位検定で比較した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的と方法を口頭と文書により説明し,本研究への参加の同意を得た方に署名を頂いた後,測定を行った.個人情報は本研究でのみ使用し,データから個人を特定できないようにした.【結果】 マットなしと比較して,マットありでは歩幅が2歩目で有意に増加し,歩隔,重心上下左右移動幅が1,2歩目で有意に増加した.また,1歩目と2歩目間での増加量を比較すると,マットありでは歩幅と重心上下左右移動幅の増加量が有意に高い値を示した.関節角度最大値および運動範囲ではマットありで遊脚側股関節と膝関節屈曲角度最大値が有意に増加した.また,立脚側では足関節底背屈運動範囲は有意に減少し,足関節内外反運動範囲は有意に増加した.関節モーメント最大値は,1,2歩目の立脚側において,マットありで足関節底屈が有意に減少し,1,2歩目遊脚側の膝屈曲および2歩目立脚側の膝伸展が有意に増加した.筋活動(%MVC)は,マットありで,1歩目立脚側の腓腹筋の有意な減少と2歩目遊脚側における大腿二頭筋の有意な増加がみられた.【考察】 マット上では2歩目の歩幅,1歩目と2歩目間での歩幅と重心移動幅の増加量が有意に増加した.不安定床面での歩行開始動作は1歩目だけでなく2歩目にも注目すべきであると考えられた.また,マット上では踵接地前の遊脚後期における大腿二頭筋の筋活動と膝関節屈曲モーメントがマットなしと比べて有意に増加し,踵接地後の荷重応答期における膝関節伸展モーメントが増加した.このことから,不安定床面上での歩行開始動作では,踵接地前後の膝関節における屈筋及び伸筋群による制動が顕著になることが示唆された.さらに,マット上において立脚側腓腹筋活動,足関節底屈モーメント,足関節底背屈運動範囲が減少したことについては,体幹や上肢などの上半身による代償や,マットの弾性による補助の可能性が考えられた.また,内外反運動範囲は増加したが内外反モーメントに変化はなく,底屈筋活動が減少していたことを考慮に入れると,本研究の条件下では,姿勢制御のために足関節周囲筋より膝関節周囲あるいはより上位の筋群による制御機能が働いたことが推測された. 【理学療法学研究としての意義】 本研究における不安定床面上での歩行開始動作の分析は,安全な歩行開始方法の指導や治療プログラムの立案に役立てることができると考えられる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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