抄録
【はじめに、目的】 近年、運動遂行の準備段階として運動イメージが重要視され、術後の固定や痛みによる不活動により、運動イメージ想起能力が低下することが報告されている。全ての行為には運動イメージが先行しており、運動機能回復を促進するためには運動イメージを想起させる必要があるとされる。運動イメージの簡便な測定方法として手足の回転図形を用い、左右どちらかを回答するMental Rotationがある。その反応時間は運動イメージ想起能力を反映すると考えられている。また、腱板断裂肩では健常肩に比べて、有意な肩関節位置覚低下を示すという報告もある。関節位置覚は関節運動制御の重要な情報源であり、空間における関節の位置関係を認識する感覚とされる。理学療法の意義は、可動域拡大、筋力増強などの単一的なものではなく、それらを日常での動作改善に結びつけることにあると考える。そのためには、運動の準備段階での運動イメージ想起能力と運動の遂行段階での関節の位置関係の認識が重要であると考える。運動イメージ想起能力の向上と位置覚の改善がどう影響しあうのかを今後、検討していきたいと考えるので、まず上肢の位置覚と運動イメージとの関連性を検討することが今回の目的である。【方法】 対象は肩関節および肘関節に愁訴のない健常男性12名(25.9±3.3歳、右利き10名、左利き2名)。運動課題は利き手側、前腕中間位、肘伸展位での肩関節自動挙上とした。端坐位、閉眼とし、検者が設定した挙上角度まで他動的に誘導し、その位置で5秒間静止させ、その角度を記憶させた。再現肢位3回の平均値と設定角度との差の絶対値を記録した。設定角度は挙上30°、60°、90°、120°とした。上腕骨外側上顆部のマーカーから上腕骨長軸への直線と肩峰を通る床への垂直線とのなす角度を側方よりデジタルカメラで撮影した。角度計測は解析ソフト(ImageJ、NIH)を使用した。運動イメージ想起能力は、手部Mental Rotation(以下、MR)を用い、利き手側の反応時間を記録した。統計処理は、スピアマンの順位相関係数の検定(統計解析Statcel)を用い、設定角度との差の絶対値とMRの利き手側の反応時間との相関関係を検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者に本発表の趣旨を説明し、同意を得た。【結果】 各設定角度における誤差は、30°:4.5±3.01°、60°:5.2±5.0°、90°:2.44±1.8°、120°:4.2±2.7°であった。MRにおける利き手側反応時間の平均は1.25±0.35秒であった。各設定角度との相関関係は30°:rs=0.69(p=0.010)、60°:rs=0.54(p=0.035)、90°:rs=0.49(p=0.049)、120°:rs=0.51(p=0.045)であり、全ての設定角度間で正の相関が得られた。【考察】 関節位置覚は関節運動制御の重要な情報源であり、空間における関節の位置関係を認識する感覚とされ、筋、腱などの受容器から成り立っており、運動感覚に寄与するとされる。今回の結果より、上肢挙上における位置覚は筋知覚や関節包内運動や皮膚の動きによるメカノレセプターによる知覚という要素に加え、運動イメージ想起能力と関節位置覚との間に関連性があることが確認できた。【理学療法学研究としての意義】 健常人であっても関節位置覚という運動感覚情報と運動イメージ想起能力との関連性が確認できた。今後は、上肢疾患の現病や既往がある患者に対して評価し、運動感覚の感度を向上させるアプローチ方法や運動学習という点でも影響を与えるかなど検討していきたい。