理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
咀嚼を制御する運動ニューロンにおける興奮性ならびに抑制性情報の入力様式
角田 晃啓上山 紗千代丹羽 亜希美三木屋 良輔森谷 正之
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キーワード: ラット, 咀嚼, 神経伝達物質
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p. Ab0454

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抄録

【はじめに、目的】 摂食嚥下機能は、生命維持の根幹に関わる極めて重要な機能である。これらの機能が適正かつ円滑に遂行されるためには、運動ニューロンレベルでの精緻な制御が必要である。我々は第45回、46回の本学術大会において、咬筋に分布する一次求心線維の中枢投射様態を検討し、筋の感覚情報が運動制御においても重要な役割を演じていることを報告した。一方、咀嚼運動は下顎骨の挙上(閉口運動)と下制(開口運動)の円滑な制御により営まれている。また、下顎骨は左右が下顎体を挟んで連結しているため、この運動の制御に関しては、左右肢が独立して運動可能な脊髄神経系とは異なった制御機構が存在するものと考えられる。今回は、拮抗関係にある閉口筋と開口筋を支配する運動ニューロンに対して興奮性情報と抑制性情報がいかに入力し運動制御を行っているかについて、我々のこれまでの研究で得られた知見に基づいて報告する。【方法】 実験にはSprague-Dawley系ラットまたはネコを用いた。単一運動ニューロンの標識には、細胞内記録法とhorseradish peroxidaseの細胞内注入法を利用した。運動ニューロンに入力する軸索終末が含有する神経伝達物質の同定には、金コロイドを用いた免疫電子顕微鏡観察法を利用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究での全ての動物実験はNIHのガイドライン(National Institutes of Health Publication No. 86-23、1985年改訂版)に準拠して行い、各実験操作中においては可能な限り動物の苦痛軽減を図るべく細心の注意を払った。さらに、術前の動物飼育管理についても可能な限り動物に苦痛を与えない配慮(十分な給餌・給水、光・温度の適切な管理等)を行った。また、本研究はヒトを対象とした実験は行っていない。よって、個人情報、人体の損傷や生命に関わる事案の取り扱いはなく、人権等に関わる倫理上の問題は生じない。【結果】 ネコ閉口筋運動ニューロンにシナプスする軸索終末の98%、開口筋運動ニューロンにシナプスする軸索終末の97%は、グルタミン酸、グリシンあるいはγ-アミノ酪酸(GABA)のいずれかを含有していた。軸索終末の分布密度から、単一の閉口筋運動ニューロンと開口筋運動ニューロンに入力する軸索終末の数が、それぞれ約115,000個と101,000個であると推計された。これらの値は脊髄神経系では大型の運動ニューロンに相当する。また、閉口筋運動ニューロンと開口筋運動ニューロンにシナプスする軸索終末において、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸を含有する軸索終末と、抑制性神経伝達物質であるグリシンやGABAを含有する軸索終末の比率はほぼ1:1になっていた。しかし、これらの軸索終末の運動ニューロン樹状突起上での空間分布は、閉口筋運動ニューロンと開口筋運動ニューロンとで異なっていた。 すなわち、閉口筋運動ニューロンでは近位樹状突起には興奮性軸索終末よりも抑制性軸索終末の方が多くシナプスし、中位と遠位樹状突起では逆の関係になっていたのに対し、開口筋運動ニューロンでは、樹状突起上での位置に関わらず、興奮性軸索終末と抑制性軸索終末の入力比率がほぼ1:1になっていた。【考察】 開口筋運動ニューロンと閉口筋運動ニューロンとで、入力してくる興奮性軸索終末と抑制性軸索終末の空間的分布に違いが認められた。つまり、拮抗関係にある筋を制御する運動ニューロンレベルで、入力してくる軸索終末の空間分布に違いがあることが明らかになった。細胞体に近い樹状突起に入力する情報の方が細胞体内での電位変化に大きな影響を与えると考えられており、近位樹状突起に対して抑制性入力が多くなっていた閉口筋では、開口筋に比べて抑制性の運動制御が優位に作用することが示唆された。このことは、生体防御の視点から、開口筋に比較して大きな筋力を発揮しうる閉口筋に抑制性の制御が作動しやすいようになっているものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究は摂食嚥下機能の遂行で重要な役割を担っている三叉神経運動ニューロンについて、電子顕微鏡観察による超微細構造のレベルで入力様式を検討している。摂食嚥下機構の解明に神経解剖学的手法で新たな知見を提供しており、理学療法学研究として意義を有する。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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