理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
視覚情報の与え方の違いによる持ち上げ動作時の脳活動と体幹筋の活動に関する研究
田中 俊輔大城 昌平横山 和彦宮下 大典栗田 貴史
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Ab0680

詳細
抄録
【目的】 手指での持ち上げ動作は,大きさという視覚情報と過去の運動記憶により筋出力が調節されている.このような動作の運動制御には脳の前運動皮質領域が関わっていることが示唆されている.また,視覚情報に基づいた重量の予測と実際の重量とのミスマッチが生じるような大きさ-重さ錯覚条件で,運動前野領域の働きが増加するといった報告がある.一方,上肢の挙上運動において,体幹の安定化を図るために先行随伴性姿勢調節(anticipatory postural adjustments:以下APAs)がなされていることが明らかになっており,姿勢制御に関わる補足運動野と関連していることも示唆されている.したがって,持ち上げ動作時のAPAsの筋活動は,手指の持ち上げ動作と同様に,視覚情報の認知によって違うことが推測される.しかし,このような条件下でのAPAsの活動と前運動皮質領域の関連を調査した報告はない.本研究では,視覚情報の違う条件下での物の持ち上げ動作を課題として,物の視覚的認知と,持ち上げ動作を行うまでの前運動皮質領域の脳活動の経時的変化と体幹筋のAPAs筋活動との関連を分析し,運動療法や物の運搬動作等の指導において視覚情報の認知過程の重要性について検討する.【方法】 対象は健常男性15人(平均年齢23.5±3)とした.研究方法は,安静座位にて目前にある重さは同じで大きさの異なる4つの容器を右手で把持し,肩関節屈曲180度位の位置まで持ち上げる課題で,その課題時の脳血流測定とAPAsにおける体幹の筋活動を測定した.容器の重さはすべて1,5kg,各容器の体積について,容器A:2560cm3 容器B:2560 cm3 容器C:550 cm3 容器D:16560 cm3であり,容器BCDには内容物の視覚情報がない.条件1「容器Aで内容物の視覚情報を与えた課題」,条件2「容器Bで内容物の視覚情報を与えない課題」,条件3「容器Cで大きさ-重さ錯覚課題(軽そうだと感じる)」,条件4「容器D大きさ-重さ錯覚課題(重そうだと感じる)」である.プロトコルは安静(60秒)-視覚的課題提示(30秒)-持ち上げ動作(10秒)とした.脳血流の計測は,光トポグラフィ装置ETG‐7100(日立メディコ社製)を使用し,3列×10行のプローブ(47チャンネル)で大脳皮質運動関連領域を覆うように装着した.測定データの解析は,国際脳波10-20法におけるCzより前方の中心領域で運動前野領域であると推測されるチャンネルを関心領域と設定し,安静時の酸素化ヘモグロビン値(oxy-Hb値)を基準として,視覚課題中から持ち上げ動作終了期間においてoxy-Hb値変化量を算出した.APAs筋活動は,被験筋を左右脊柱起立筋,左右外腹斜筋とし,表面筋電図(システムTeleMyo2400,Noraxon社製)を用いて測定し,各持ち上げ動作時の筋電図積分値を算出した.また対象者に,主観的な重量感を持ち上げ動作後に回答させた.統計処理には一元配置分散分析を用い,事後検定に多重比較法を用いた.危険率5%を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認を得て,研究参加者に目的、方法、個人情報の取り扱い等を説明し,同意を得て実施した.【結果】 持ち上げ動作5秒前におけるOxy-Hb値変化量を課題条件で比較した結果,他の条件と比べて条件4にて有意な増加が認められた(p<0.05).脊柱起立筋のAPAs筋活動は,条件4が条件1と比べて有意に高値を示した(p<0.05).また条件3・4の課題で,脊柱起立筋のAPAs筋活動が条件3に比べ条件4で低い値を示し,運動前野領域の脳活動の上昇も観察されなかった3例では,主観的な重量感の評価から,視覚情報から重量の予測が適切にできていない(軽く見積もる)被験者であった.【考察】 大きさという視覚情報から“重い”と予測されるような持ち上げ動作では,重量とは関係なく,視覚情報に伴って運動のプログラミングをするといわれている運動前野領域の脳活動が高まり,大きな運動指令がなされることが示唆された.一方,手指での先行研究と同様に脊柱起立筋のAPAs筋活動において,大きさという視覚情報に基づく運動記憶から調節がなされていることが示唆された.主観的な重量感の評価では,条件4を軽く見積もる被験者では脊柱起立筋のAPAs筋活動が小さく,脳活動の上昇が認められず,適切な予測制御が行われないことが示唆された.このことから,視覚情報に伴う予測的な認知過程が適切でない場合,持ち上げ動作では脊柱起立筋のAPAs筋活動が生じずに腰痛発症のリスクがあると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 視覚情報の与え方の違いが中枢神経系から体幹筋への運動指令に影響を及ぼすことを検証した.理学療法においては,視覚情報に伴う認知過程を考慮し,日常生活の荷物の持ち上げや運搬作業の動作指導を行うことが腰痛等の傷害を予防する上で重要であろう.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top