理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
骨盤角度の変動に着目した歩行動作解析
─無線3軸加速度センサ・3軸角速度センサを用いて─
中嶋 裕子河野 宏美坪内 健一高岡 達也田口 浩之
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キーワード: 骨盤, 歩行, 動作解析
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p. Ab1057

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抄録
【目的】 股関節疾患において、脊柱や骨盤のアライメントは股関節と相互に関連している。効果的な理学療法を展開していくためには、股関節機能のみに限局した理学療法評価や実践だけでは不十分であり、全身的な視点を持って治療を行うことが重要である。また、股関節疾患の患者の歩行において、骨盤の異常運動は、本来の罹患部位である股関節の機能不全を補う代償動作として、頻繁に出現しており、計測・評価する意義が認められている。今回我々は、高性能で簡便かつ比較的安価な無線動作角度計システムを使用し、今後の動的解析の参考指標となりうる健常人での歩行時の骨盤角度の変動を計測した。【方法】 対象は、健常成人10名(男性5名、女性5名、平均年齢32±4歳、平均身長:167±9cm、平均体重:60±10kg、BMI:21.6±2.0)とした。計測方法は、左母趾足底面及び左踵部足底面に設置したフットスイッチセンサ(圧力フィルムセンサ、ニッタ社製、A201-1)と第3腰椎部に貼付した無線加速度センサを用いて、フットスイッチセンサからの反応開始時と加速度センサの最大ピークトルク時期を照らし合わせ、左踵接地、足尖離地の時期を判定し、一歩行周期を確認した。また3軸加速度センサと3軸角速度センサ内蔵の無線動作角度計システム(MicroStone社製、MVP-RF8を2個、MVP-DA2-S)を用いて、一つは基本軸を脊柱と仮定し第3腰椎部の表皮にテープで貼付しバンドにて固定、もう一つは移動軸を骨盤部の左右(1)上前腸骨棘(2)腸骨稜側面(3)上後腸骨稜の3条件計6カ所とし、表皮にテープで貼付し固定した。歩行環境は、裸足、自由スピードとし、10m歩行を3回計測した。解析方法は、データの内10m歩行の始動時数秒を除外した5秒間を選択し、一歩行周期における骨盤の3方向(上・下方回旋、前・後方回旋、前後傾)の最小値と最大値の差を変動角度として平均値と標準偏差を算出した。また、データのばらつきを確認するため、個人要素である歩行速度、歩数、身長の比で変動係数をそれぞれ算出した。データは、無線動作角度計測ソフトウェアからCSVファイルに変換されたものを使用した。【説明と同意】 健常対象者10名には、実験の趣旨と研究の趣旨について説明し同意を得た。【結果】 骨盤の平均変動角度は、(1)上前腸骨棘:上・下方回旋4.8°±1.1°、前・後方回旋10.8°±3.7°、前後傾10.0°±3.2°、(2)腸骨稜側面:上・下方回旋6.6°±1.6°、前・後方回旋12.9°±2.9°、前後傾7.3°±1.7°、(3)上後腸骨棘:上・下方回旋5.1°±1.9°、前・後方回旋9.7°±2.7°、前後傾6.3°±2.0°であり、骨盤の変動角度において3箇所3方向の大差はみられなかった。個人要素である歩行速度8.2±0.8秒/10m、歩数16.6±1.4歩/10m、身長を考慮した変動係数は、(1)上前腸骨棘:上・下方回旋0.23、前・後方回旋0.33、前後傾0.36、(2)腸骨稜側面:上・下方回旋0.26、前・後方回旋0.24、前後傾0.24、(3)上後腸骨棘:上・下方回旋0.32、前・後方回旋0.25、前後傾0.31であった。【考察】 従来、歩行時の骨盤変動は、主観的に重度・軽度、大きい・小さい等のアナログ的な表現で評価されてきた。また、X-P所見など静的な姿勢解析に着目した報告は散見されるが、歩行など動的な姿勢解析を定量的に検討した報告は少ない。動的な姿勢解析には機器導入コストや機器の操作性により臨床で頻繁に使用されるには困難な面が多く、問題があるのが現状である。今回、我々は無線動作角度計システムを用いて数量評価することができた。過去の歩行時における姿勢解析で鈴木らは、上・下方回旋10°、前・後方回旋10°前後、前後傾4°前後と報告している。今回の我々の結果は、骨盤の平均変動角度は近値を示したもの異なる結果となった。この原因として、我々の研究では脊椎に対する骨盤の変動を測定し、歩行時の純粋な骨盤のみの動きを捉えた値となったためと考える。また、今回の結果では、骨盤に貼付した3箇所を比較すると、どれも変動係数は近値であり、客観的評価にふさわしい値であった。今後の課題として、骨盤と下肢関節との関連性を分析していき、疾患・障害別データとの比較を行うさらなる研究を行いたい。【理学療法学研究としての意義】 我々は、歩行時の骨盤角度の変動について、アナログ的表現の主観的な分析から数値を用いた客観的な分析が行えるようになった。健常人での歩行時の骨盤角度の数量的評価は、今後の動的解析の参考指標となりうる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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