理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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高齢者大腿骨近位部骨折の階段昇降能力に影響を与える因子
立川 都美矢田 順治知花 尚徳大橋 浩太郎
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p. Ab1297

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抄録
【はじめに、目的】 高齢者大腿骨近位部骨折において、歩行能力の再獲得が重要とされており、歩行能力の予後予測に関した研究が多い中、階段昇降能力についての研究が少ない。高齢者の階段昇降においては、下肢筋力の関連性が指摘されているが、身体能力以外に着目した研究がみられない。そこで、本研究の目的として、回復期リハビリテーション病院の大腿骨近位部骨折患者における退院時階段昇降能力に関係する予測因子を調査することである。【方法】 期間は2008年4月から2011年7月であった。対象者は65歳以上の大腿骨近位部骨折受傷者で、急性期病院にて手術を施行し、リハビリテーション目的にてリハビリテーションセンター熊本回生会病院転院した者であった。カルテより情報収集を行い、退院時歩行が不可能であった者は除外した140例であった。調査項目は、性別、年齢、骨折部位、在院日数、受傷前・退院時歩行能力、受傷前・退院時歩行自立度、両側骨折の有無、認知症の有無、疼痛の有無、片麻痺の有無、膝伸展の簡易徒手筋力(以下、MMT)、股関節屈曲可動域、 Functional Independence Measure(以下、FIM)入院時・退院時合計、FIM下位項目の歩行・階段点数、改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)を挙げた。退院時FIM階段項目の6~7点を自立群(以下、自立群)、1~5点を非自立群(以下、非自立群)と定義づけした上で分類した。上記項目の自立群と非自立群の比較を単変量解析(χ2検定、t検定、Mann-WhitneyのU検定)にて行った。また、自立群と非自立群を目的変数としたロジスティック回帰分析を実施し、有意差が認められた項目を説明変数として、多変量解析を行った。統計ソフトはStatFlex Ver.4.1を用い、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき実施した。対象者においては個人情報保護に対する同意を得て個人が特定されないよう配慮し、また、当院の倫理委員会による承諾を得て実施した。【結果】 140例中、階段昇降動作が自立したのは41例で全体の29%であった。自立群と非自立群間では、性別、年齢、退院先、在院日数、受傷前歩行能力、退院時歩行能力、退院時歩行自立度、入院時FIM、退院時FIM、HDS-R、認知症、退院時歩行FIM、膝伸展MMTに有意差が認められた(13項目の全てにおいてp<0.01)。骨折部位、受傷前歩行自立度、股関節屈曲可動域、両側骨折・疼痛・片麻痺の有無に関しては、有意差は認められなかった。上記項目より退院先、在院日数、退院時FIM、退院時歩行自立度、FIM歩行の6項目は、退院時の階段昇降能力に直接関わる因子のため除去し、ロジスティック回帰分析を実施した。変数減少法にて入院時FIM(オッズ比;1.085 p<0.01)、年齢(オッズ比;0.916 p<0.01)であった。実測値と予測値の計算より信頼性は、78.6%であった。【考察】 今回の調査結果から、歩行可能者の中でも階段昇降動作が自立したのは全体の29%であり、階段昇降能力は高度な動作といえる。単変量解析より、自立群と非自立群では13項目に有意差が認められた。退院時歩行可能者の中でも有意差が認められたことにより、階段昇降動作にはより高度なレベルでの運動機能面に加え、認知面、ADLの自立度といった複数の因子が関与していると考えられる。ロジスティック回帰分析では入院時FIMと年齢に有意差が認められた。年齢が予測因子として含まれることにより、入院時FIMが高くても、高齢であれば自立困難となることがわかった。また、高齢になるほど手術後の歩行が遅延するとの報告があり、階段昇降にも同様に年齢が深く関与していることが示唆された。そして、認知症の有無及び入院時の身体状況が回復経過に影響しているとの報告もあり、入院時FIMは重要な着目点といえる。しかしながら、歩行能力の高い者の動作であるため、FIMの下位項目などより詳細な情報・評価が必要である。今回は退院時歩行不可能であった者を除外して検討したが、今後これらについても分析・検討を行う必要がある。今後の展望として、階段昇降能力は要介護高齢者の外出実行にも関与しているという報告もあり、研究に加え、併せて階段昇降能力の向上についても臨床の場で活かしていきたい。【理学療法学研究としての意義】 階段昇降能力という歩行能力の高い者のみの動作であるが、回復期病院から自宅退院へ移行する中で、患者のQOL拡大に繋がるため今後着目していく必要がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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