理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
筋ストレッチの強度,時間変化による筋酸素動態の変化
大塚 翔太中嶋 翔吾柏木 彩矢菜南 頼康森沢 知之高橋 哲也
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p. Ab1343

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抄録

【はじめに、目的】 理学療法手技の一つとして筋のストレッチは日常臨床で広く使用されている。近年,ストレッチによるさまざまな効果が報告され,ストレッチによる筋血流減少による筋量維持の効果や,ストレッチ後の反応性充血による血行改善効果は,ストレッチの新しい可能性として注目されている。しかし,どの程度の強度でどの程度の時間ストレッチすることが,局所の血流を変化させ,同時に筋酸素動態をどの程度変化させるのかは十分に検討されているとは言い難い。そこで我々はストレッチの強度を定量化し,異なるストレッチ強度,異なるストレッチ時間で,ストレッチが筋血流量や筋酸素動態に及ぼす影響について検討することとした。 本研究の目的は,どの程度の強度でどの程度の時間ストレッチすることが局所の血流を変化させ,同時に筋酸素動態にどのような変化を与えるのかを検討することである。【方法】 対象は,健常大学生20名のうち,すべての測定プロトコルを完遂した17名(平均年齢21.7±1.4 歳)とした。対象は仰臥位,膝関節完全伸展位,足関節底背屈0度でハンドヘルドダイナモメータ(日本メディックス(株),マイクロFET2)を用いて強度を確かめながらストレッチを行った。5ニュートンメートル(N・m)で60秒のストレッチ,5N・mで120秒のストレッチ,10N・mで60秒のストレッチ,10N・mで120秒のストレッチの4パターンを無作為に合計4回行った。ストレッチ間の休憩は基本的に2分とし,その後,基線の安定を確認したのちに再試行した。その際の測定指標として近赤外線分光計(オメガウェーブ(株),BOM-L1TR SF)を用い,酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb),脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb),組織酸素飽和度(StO2)を採用した。ストレッチによる各指標の変化は,ストレッチ前に設けた安静期にて基線が安定している約10秒間の平均値を安静基準値とし,ストレッチによる各指標の変化を変化率(%oxy-Hb,% deoxy-Hb,%StO2)で求めた。測定対象部位は利き足の最大膨隆部の腓腹筋内側頭とした。測定部位には表面筋電図(EMG)を装着し,EMGで筋収縮が起こっていないかをモニタリングしながら行った。統計処理は,各条件間の比較にて対応のないt-検定を用い,条件内の変化率は対応のあるt‐検定を用いて解析した。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究について事前に書面および口頭にて充分な説明を行い,書面にて本人の同意を得た。【結果】 ストレッチによる筋酸素動態は,10N・mでのストレッチを120秒加えたほうが有意な変化を示した。5N・mのストレッチでは各指標に大きな変化がみられるのは開始から60秒までであり,それ以降は有意な変化は認めなかった(StO2の基準値を100とした変化率は60秒後93.3%、120秒後93.9%)。10N・mでは60秒後も筋酸素動態の変化がみられ,特に60秒~90秒間で,5N・mと比べて有意な差が認められた(StO2の基準値を100とした変化率では60秒後90.7%、120秒後87.6%)。同じくストレッチ終了後の末梢循環応答の1つである反応性充血(reactive hyperemia)が関与していると思われるoxy-Hb,StO2のストレッチ後の変化率は,各強度ともに60秒に比べて120秒にて変化量が大きかった。【考察】 ストレッチによる筋酸素動態は,10N・mでのストレッチを120秒加えたほうが他の条件に比べて有意な変化を示した。これは筋束長の伸張が大きいほど筋血流量の減少が大きいこと,ストレッチにより筋の形態学的変化を得るには2分間で十分であるといった先行研究の結果とも合致する。5N・mと10N・mの差はストレッチ時間が延長するほど顕著となった。60秒以降では5N・mのストレッチでは10N・mに比べて血流の減少程度が少ないことが考えられ,ストレッチにより筋酸素動態に変化を与えるには,一定以上の強度と,時間が不可欠であることが示唆された。 今回はストレッチの強度とストレッチ時間による筋酸素動態の変化を検討し,一定の傾向を認めたが,この変化量がどれほどの臨床的意味を持つかは不明である。そのため,今後は筋構造が変化している高齢者や長期臥床による拘縮・筋萎縮を伴う患者を対象とした検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究より,一定以上の時間・強度を用いないストレッチでは,ストレッチ中の筋血流制限やストレッチ後の反応性充血に乏しく,十分な代謝性の変化をもたらすことができないことが確認された。これらの結果は,理学療法の代表的な技術であるストレッチがより科学的根拠を用いて行われることに対し,示唆を与える研究であったと考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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