理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
再現遠心性収縮による筋損傷モデルの組織学的・機能的回復
森 友洋縣 信秀柴田 篤志宮津 真寿美河上 敬介
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p. Ab1354

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抄録

【はじめに・目的】 筋損傷に対する理学療法の効果には不明な点が多い.その理由には,治療効果を調べるための再現性のある筋損傷モデルがない事,筋損傷からの組織学的な回復過程が定量的に評価されていない事が挙げられる.さらに,組織学的側面からだけでなく,理学療法の効果を検討するには,日常生活動作に大きな影響を及ぼす,筋力という機能的側面の変化を明らかにすることも重要である.これまでに我々は,小動物用足関節運動装置を用いて,他動的な足関節の運動範囲,回数,角速度を設定し,前脛骨筋の遠心性収縮を行わせ,遠心性収縮48 時間後の足関節の最大等尺性背屈トルクが 10 mN・m 以下の筋のみを抽出すると,組織学的に再現性の高い損傷モデルが作製できることを報告した.そこで,本研究の目的は,この遠心性収縮による筋損傷モデルを用いて,組織学的側面と,機能的側面の両方から、筋損傷の回復過程を定量的に明らかにすることである. 【方法】 対象は,8 週齢 Wistar 系雄性ラット 95 匹とした.この内,59 匹には遠心性収縮を行った.遠心性収縮は,前頚骨筋に対して電気刺激(5 mA,100 Hz,duration 1 ms)を与えた0.2 秒後に,角速度を 200度/秒,運動範囲を脛骨と第 5 中足骨の成す角度が 60 度から 150 度までの 90 度とした足関節の他動的な底屈運動を,10 回,5 セット行った.そして、遠心性収縮48時間後の足関節の最大等尺性背屈トルクが 10 mN・m 以下であった 39 匹を,遠心性収縮 3,5,7,10,14,28 日後 (n= 6,6,6,7,7,6) に筋採取する 5 群に分けた.また,Control 群(n= 36) は,遠心性収縮実施群と同経過日数を経た 3,5,7,10,14, 28 日後 (n= 各 6) に筋を採取した.筋損傷からの回復過程の組織学的評価として,筋横断切片のDystrophin (筋細胞膜) と Developmental myosin heavy chain (D-MHC) の二重免疫染色を行った.そして,筋腹横断面積を測定するとともに,前脛骨筋の筋腹横断面における浅層部,中間部,深層部から,それぞれ一辺が0.5 mm の正方形の範囲を抽出して(計 0.75 mm2),各染色像における筋線維横断面積と筋線維数を測定した。また,測定した筋腹横断面積から筋腹横断面全体における筋線維数を算出した.機能的評価として,筋採取を行う直前に,電気刺激による足関節の最大等尺性背屈トルクを測定した.【倫理的配慮・説明と同意】 本研究は当大学動物実験委員会の承認を得て行った.【結果】 損傷からの回復過程における足関節の最大等尺性背屈トルクは,遠心性収縮2日目に急激に減少した後,徐々に増加し,28 日後では Control 群と有意な差がなかった.平均筋線維横断面積は,損傷 3 日後に Control 群に比べて有意に減少し,その後徐々に増加し,損傷 28 日後では Control と比べ有意な差がなかった.損傷 3 日後の筋線維数は Control 群に比べ2338本少なかった.この差には,大径(>3000 µm2)の筋線維の割合の減少が関与していた.一方,損傷 7 日後には筋線維数が Control に近づいた.この増加には,小径(<800 µm2)の筋線維の割合の増加が関与していた。また,損傷 5 日後で観察された小径の筋線維のうち84 %が D-MHC 陽性(筋腹横断面中に 2607本)であった. 【考察】 本研究では,我々の開発した再現性のある筋損傷モデルの回復過程を定量的に評価した。本モデルでは,損傷5日後に観察された新生した筋線維が,徐々に成長し,28日後に正常に戻ることが,組織学的にも機能的にも分かった.さらに,D-MHC 陽性筋線維の出現する時期も明らかになった。一般に,遅筋に比べ速筋の筋線維横断面積は大きいといわれている。損傷初期に大径の筋線維が減少したことは,一般的にいわれている遠心性収縮によって速筋筋線維が損傷するという事を反映していると考える。また,算出値ではあるが,回復過程における筋線維数の増減は,D-MHC 陽性筋線維の増減と照らし合わせて考えると,損傷した筋線維が新生した筋線維に置き換わり,成長し,機能的にも回復した現象を捉えていると考える。【理学療法学研究としての意義】 本モデルと評価方法を用いることで,今後,筋損傷に対する適切な理学療法刺激の種類の解明,さらには適切な時間や時期などの解明が可能になる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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