理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
妊婦の姿勢評価―非妊娠女性との比較―
岡西 奈津子木藤 伸宏秋山 實利山本 雅子
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p. Ac0393

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抄録

【はじめに、目的】 妊娠中および産後に腰痛,骨盤帯痛,尿失禁に悩まされる女性は多く、これらは妊娠に伴う姿勢変化が発症要因として報告されている。しかし,妊婦の姿勢について,脊柱平坦化,骨盤前傾または後傾等一定の見解はみられず,姿勢変化と身体症状の関係について明確なエビデンスは存在しない。また,多くは欧米人を対象とした報告であり,体型や生活習慣の異なる日本人に必ずしも一致しないと考えられる。本研究は妊婦の身体症状に関与する要因を解明するための第一段階として,スパイナルマウスから得られる脊柱弯曲指標と静止画像から得られた姿勢指標を用いて,妊婦の姿勢の特徴を明らかにすることである。【方法】 被験者は,医師により研究参加許可の得られた妊娠16週-35週の妊婦15名(妊婦群)および妊娠していない健常成人女性15名(非妊婦群)とした。切迫早産や内科的疾患等の妊娠継続が困難となり得る合併症,その他明らかな骨関節疾患等の疾患がある者は除外した。姿勢評価では,デジタルカメラで矢状面より撮影した静止画像を,画像解析ソフトImage J 1.42(NIH)を用いて体幹と骨盤のなす角度,体幹と下肢のなす角度を計測した。併せて,スパイナルマウス(R)(Aditus Systems Inc.,Irvine)を用いて,頚椎から仙椎までの脊柱アライメントを計測し,仙骨傾斜角,胸椎前弯角,腰椎後弯角,立位時の傾斜角を算出した。得られたデータからSPSS for Windows 15.0J(SPSS Japan Inc.)を用いて,主成分分析を行った。求めた主成分得点より,妊婦群と非妊婦群の姿勢の特徴を比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 研究に先立ち,研究内容およびリスク,個人情報の保護,研究成果の学会発表,研究参加中断可能であることについて,十分な説明を口頭にて行った。すべての被験者において同意が得られ,同意書に署名を頂いた。また,本研究は広島国際大学倫理委員会の承認を得た。【結果】 妊婦群は年齢31.1±4.0歳(平均±標準偏差),身長156.5±4.9cm,体重54.3±7.1kg,妊娠週数24.5±6.0週,初産婦8名,経産婦7名であった。非妊婦群は年齢30.3±5.2歳,身長158.2±6.3cm,体重52.3±6.4kgであり,年齢,身長,体重において有意差は認められなかった。主成分分析の結果,固有値が1以上を示したのは第1主成分は腰椎後弯角0.93,仙骨傾斜角0.83、第2主成分は立位時の傾斜角0.80,第3主成分は体幹と骨盤のなす角度0.69で高い負荷量を示した。また,累積寄与率は74.1%であった。以上の結果より,第1主成分は腰仙椎の弯曲の強弱,第2主成分および第3主成分は立位時の全身の傾斜を示していた。脊柱アライメント指標である仙骨傾斜角は,大きな正の値なら骨盤前傾,小さな正の値または負の値であれば骨盤後傾を意味する。腰椎後弯角は,角度が正の値なら後弯,負の値なら前弯を示す。立位時の傾斜角は、角度が負の値の場合は全体の姿勢が後傾を表す。体幹と骨盤のなす角度は、角度が小さいと体幹後傾を表す。これに基づき第1主成分と第2主成分の主成分得点より姿勢を分類すると,妊婦群は腰仙椎が後傾している者が13名と多く、非妊婦群では腰仙椎が前傾している者が11名であった。立位時の傾斜角は非妊婦群と比較して妊婦群ではばらつきがみられた。第1主成分と第3主成分の主成分得点による姿勢の分類も同様の傾向が示された。【考察】 本研究の結果、腰仙椎の弯曲と立位時の傾斜が、姿勢評価の指標となることが示され、非妊婦群と比較して妊婦群は腰仙椎後傾することが明らかとなった。妊婦は増大する腹部を保持し抗重力姿勢を保つために,体幹の質量中心を後方へ変位させなければならない。体幹の質量中心を後方へ変位させるためには,脊椎と骨盤の形状を変化させる必要があり,腰仙椎後傾により対応していることが推測された。しかし,全身の傾斜については一定の傾向がみられなかったことは、今後引き続き分析する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究で行ったデジタルカメラおよびスパイナルマウスによる姿勢計測は,姿勢評価を客観的に行う事が可能であり、被験者への身体的負担が非常に少なく,臨床現場で姿勢の計測を行う上で有用な手法と考えられる。また、妊婦の姿勢と身体症状との関連性を明らかにすることで,身体症状の改善やその発症を予防するための理学療法介入方法が明らかとなることにつながる。そのため,妊婦の姿勢分析はその根本的な指標となり,不可欠である。本研究を通して日本のウーマンズヘルスケアにおける理学療法士の職域拡大に寄与できるものと考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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