理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
健常者における体性感覚入力が視覚的垂直認知および身体的垂直認知に及ぼす影響
─測定の信頼性の検討─
藤野 雄次網本 和井上 真秀大塚 由華利篠崎 かおり播本 真美子小泉 裕一細谷 学史高石 真二郎前島 伸一郎
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キーワード: 垂直認知, 体性感覚, 信頼性
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p. Ae0056

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抄録

【はじめに】 健常者の姿勢定位における垂直性の認知は,視覚性・迷路性・体性感覚性により強固に支持されているが,脳損傷例ではこれら感覚情報とそれに応答する神経筋活動の障害のため,既得の垂直認知が変容することが知られている.Pusher現象の生起メカニズムの解析により,Pusher現象には視覚的垂直認知(Subjective Visual Vertical;以下,SVV)と身体的垂直認知(Subjective Postual Vertical;以下,SPV)の差異が関与することが示唆されている.Pusher現象に対する治療として,体性感覚入力や視覚垂直を付与することが重要であるとされているが,これらの刺激がSVVやSPVにいかなる影響を及ぼすかは明らかではない.しかし,これまでの垂直認知に関する測定は機器が大がかりであり,座位保持が不良な例には適応が困難なものであった.そこで我々は,重症例に対しても安全かつ簡易的に垂直認知の評価が可能な機器(Vertical Board;以下,BV)を開発した.本研究の目的は,健常者における体性感覚入力がSVVおよびSPVにおよぼす影響を明らかにすることと,測定の信頼性を検証することとした.【方法】 対象は神経疾患および骨関節疾患を有さない健常者10例(年齢24.8±2.7歳,男性5例/女性5例,全例右手利き)とした.対象者は,体幹の後側面を囲い,台座上に角度計,台座下に前額面上で台座を回転させる半円状のレールを取り付けたBVに足部を床面に接地せずに腰掛けた.測定方法は,検者が座面を15度傾斜させた位置(開始位置)から2°/秒の速さで水平方向に座面を動かし,対象者が垂直と認知した位置での座面の傾斜角度を記録した.SVVは開眼条件,SPVは閉眼条件とし,対象者の体重の5%の錘を右あるいは左肩に負荷した座位(以下,錘座位)と,通常の座位(以下,通常座位)でそれぞれSVVとSPVを測定した.錘負荷は無作為に左右肩に割り当てた.錘座位と通常座位でのSVV・SPVの測定は,左右1回ずつ練習をした後,それぞれ開始位置を右・左・左・右の順として計4回行った.角度は鉛直位を0°,錘負荷側への偏移をプラス・錘負荷側と反対方向への偏移をマイナスとして算出し,解析には4回の平均値を用いた.また,測定の信頼性の検討のため,2日後に通常座位でのSVVとSPVを再測定した.検討項目は錘座位と通常座位におけるSVVとSPVの比較と,通常座位における測定の信頼性および測定誤差とし,統計的手法には対応のあるt検定と級内相関係数(1,1)を用い,測定誤差は最小可検変化量(MDC)の95%信頼区間(MDC95)から求めた.統計ソフトはSPSS ver.19を用い,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者には事前に本研究内容を十分説明し,署名にて同意を得た.【結果】 SVVは,通常座位で0.1±3.4°(平均±SD),錘座位で0.1±2.8°であり,有意差はなかった.SPVは,通常座位で0.8±3.5°,錘座位で2.7±2.5°であり,錘負荷側へ有意に傾いた(p<0.01).ICC(1,1)はSVVが0.915,SPVが0.891であり(p<0.01),MDC95はSVV・SPVとも2.0°であった.【考察】 健常者におけるSVVおよびSPVは極めて正確であったが,錘負荷によってSPVは錘負荷側に傾くことが明らかとなった.SVVに関する研究では,頭部傾斜が大きいとき,SVVは傾きと反対方向へ傾斜して認知され(A現象),頭部の傾きが小さいとき同側に傾斜して認知される(E現象)ことが知られている.今回,SPVにおける重錘負荷によって同側方向に傾斜認知が変容されたこと(E認知)は,この負荷が比較的わずかな情報量の増加をもたらしたのではないかと考えられた.すなわち,固有受容器の入力情報を処理する脳部位として,視床や島が重視されており,SPVでは視覚情報の途絶と体性感覚入力の賦活が重力を受容するシステムに影響を及ぼしたことが示唆された.また,測定の信頼性は極めて良好であり,測定誤差が明らかになったことから,本研究を基礎として垂直認知の評価ならびに治療に関する臨床的検討が可能であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 垂直認知の評価は,視覚や体性感覚などの感覚モダリティがどのように関与しているかを明らかにするとともに,姿勢定位障害に対する戦略的かつ適切な治療の選択に有用であると考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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