理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
高齢者の前方リーチ動作時の母趾圧力の特徴
黒木 薫佐藤 啓壮齋木 しゅう子
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p. Ae0058

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抄録

【はじめに、目的】 立位での前方リーチ動作は日常生活においてよく行われる動作であり、バランスを保持しながら目的物に手を伸ばすという身体能力が求められる。ファンクショナルリーチテスト(以下、FRTとする)はDuncanらによって提唱された前方のバランス制御評価指標であり、日常の臨床にて頻繁に用いられている。高齢者においてFRTのリーチ距離と転倒要因との相関が高いことが報告されている他、リーチ距離のみならず動作時の姿勢戦略についての検討が多くなされている。高齢者の多くは足趾・足関節機能が低下し、若年成人と比べ足関節の運動よりも股関節の動きを伴う戦略を用いバランス制御を行うといわれている。特に足趾に着目した報告では、足趾把持力がFRTのリーチ距離と相関がみられるという報告が散見され、近年、転倒予防のためのエクササイズとして足趾に対する各種運動療法が多く実施されている。しかし、実際の前方リーチ動作における足趾機能に着目した報告は少ない。今回、我々は機能的な母趾屈曲力を床面に対する母趾圧力とし、FRTにおける母趾の関与について高齢者と若年者を比較検討した。【方法】 対象は、地域在住の定期的に運動を行っている健常な高齢者12名(男性6名、女性6名)、年齢67.6±4.8歳、身長161.3±7.2cm、体重64.2±8.2kgを高齢者群、及び、健常な大学生12名(男性6名、女性6名)、年齢20.3±0.8歳、身長165.3±9.4cm、体重63.9±1.1kgを若年者群とした。FRTの動作方法は、對馬らの方法(体幹の回旋をブロックした「両手リーチ」)に準じて実施した。安静立位姿勢から両上肢を90°前方挙上させ、足底接地したまま自分のペースで前方へリーチさせた。このとき、両上肢拳上位・最大リーチ位の各肢位を3秒間保持するように指示した。計測は、足圧計測器(FDM-S:Zebris社製)の上でFRTを実施し、足圧分布を計測した。その際、3次元動作解析装置(Cortex:MotionAnalysis社製)で3次元マーカーデータをPC内に同期させてサンプリング0.1KHzにて取り込んだ。3次元動作解析のマーカーデータはButterworthの6Hzにて平滑化を行い、得られたデータから、リーチ距離、リーチ動作時の足関節・股関節の角度変化、両上肢拳上位・最大リーチ位の各肢位における母趾圧力を抽出し、リーチ距離は身長にて、母趾圧力は体重にて、それぞれ正規化を行った。統計処理は、エクセル統計2010((株)社会情報サービス)を用い、リーチ距離の比較にはMann-Whitney U-testを、足関節・股関節の角度変化の比較と母趾圧力の比較にはそれぞれ対応のある2元配置分散分析を用い、TukeyのPost-hoc testを行った。有意水準はいずれも5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に、本研究の目的と内容を説明し書面で同意を得た。なお、本研究は東北福祉大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。(承認番号:RS1002151)【結果】 リーチ距離では高齢者群が若年者群に比べ有意に短くなった(p=0.000)。動作時の角度変化では、股関節において高齢者群が有意に大きくなった(p=0.032)が、足関節において若年者群との間に有意な差は認められなかった(p=0.808)。両上肢拳上位・最大リーチ位の各肢位における母趾圧力では、最大リーチ位にて高齢者群が有意に小さくなり(p=0.001)、両上肢拳上位では若年者群との間に有意な差は認められなかった(p=0.461)。。【考察】 立位における前方へのリーチ動作では、前足部への荷重が増大し足趾での支持が重要であると考えられる。結果より、高齢者群は、リーチ動作時に若年者群と比べて母趾圧力を高めることができず、股関節の屈曲角度を増大させて動作を遂行していると考える。これは、高齢者が足関節の運動よりも股関節の動きを伴う戦略を用いるという先行研究を支持している。また、高齢者は年齢とともに足趾屈曲力が減少すること、リーチ距離が短くなることが言われている。本研究では足趾屈曲力の測定は行っていないが、母趾圧力の低下の要因の1つとして、足趾屈曲力が低下していたために前足部での支持につながらなかったことが考えられる。今後は、足趾筋力や動作時の筋電図解析から更なる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 高齢者の転倒予防の観点から動的な姿勢制御機構の評価は重要な要素であり、本研究では、実際のリーチ動作における足趾機能を足趾圧力の観点から検討を行った。姿勢制御機構の理解のためには、筋力・可動域・感覚などの評価の他、それらが動作にどのように関与しているか検討することが必要であり、本研究における足趾機能の検討は有用であると考える。本研究は平成20~24年度戦略的研究基盤形成支援事業の助成を受けて行われた。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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