抄録
【はじめに、目的】 2型糖尿病の発症には生活習慣などの環境因子と遺伝子多型による遺伝因子が関与するとされている。これまで、遺伝的素因によって2型糖尿病を自然発症するモデル動物を用いて、病期の進行に伴う血糖の上昇予防に継続的な持久運動が効果的であることを報告した。糖尿病では微小血管及び大血管障害により惹起される重篤な合併症が問題になるため、血糖の上昇予防に加え、血管障害を予防することが重要である。糖尿病の骨格筋では、筋線維あたりの毛細血管数を表す毛細血管/筋線維比(C/F比)が減少し、微小血管障害を伴うと報告されている。そこで、本研究では2型糖尿病を自然発症するモデル動物を使用し、病期の進行に伴う血糖の上昇、及び骨格筋内微小血管障害に対する継続的な持久運動による予防効果を検証した。また、血管新生を促進する代表的なタンパク質である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現量を検証した。【方法】 自然発症2型糖尿病モデル動物として11週齢の雄性Spontaneously Diabetic Toriiラットを使用し、非運動群(DB)と持久運動群(DBEx)に区分した。また、同一週齢の雄性Sprague-Dawley ラットを用い、非運動群(Con)と持久運動群(Ex)を設定した。Ex群とDBEx群に対する持久運動は、トレッドミル走行(速度15 m/min、60分間)を週5回の頻度で、11週齢時点から25週齢時点までの14週間継続して行った。尚、4群間の給餌量は均等に調整した。25週齢の時点において下大静脈より採血を行い、空腹時血糖とグリコヘモグロビン(HbA1c)を測定した。採血後、足底筋を摘出し、急速凍結して-80℃で保存した。得られた筋試料から12μm厚の横断切片を作製し,アルカリホスファターゼ染色を行い、深層におけるC/F比を算出した。また、ウェスタンブロッティング法により、足底筋におけるVEGFの発現量を測定した。得られた測定値は一元配置分散分析、及びpost-hocテストとしてTukey法を使用し、有意水準を5%として統計処理を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 空腹時血糖値とHbA1cは、DB群ではCon群と比較して何れも有意に高値を示した。一方、DBEx群ではDB群と比較して有意に低値を示し、Con群、Ex群、DBEx群の3群間に有意差を認めなかった。DB群における足底筋深層のC/F比は、Con群に比べて24 %減少し有意に低値を示した。一方、DBEx群のC/F比はDB群と比較し34 %増加し有意に高値を示し、Con群、Ex群、DBEx群の3群間では有意差を認めなかった。また、DB群のVEGF発現量は、Con群と比較して42 %減少し有意に低値を示した。一方、DBEx群では、DB群と比較して103 %増加し有意に高値を示し、Con群、Ex群、DBEx群の3群間には有意差を認めなかった。【考察】 本実験で使用した自然発症2型糖尿病モデルラットは25週齢時点において、空腹時血糖値、HbA1cの上昇、及びC/F比の減少を認めたが、継続的な持久運動を実施することにより、血糖の上昇、及び骨格筋内微小血管障害を予防することができた。先行研究において、糖尿病における骨格筋内微小血管障害はVEGF発現の減少を伴うと報告されており、本研究においても同様の結果が生じた。VEGFは血管内皮細胞に特異的に作用し、血管新生を促進する因子であると報告されているが、糖尿病ではこの制御系が活性化されず、微小血管障害が惹起されたと考えられる。一方、運動はVEGF発現を増加させることで血管新生を促進することが知られており、本研究における糖尿病に対する持久運動では、運動負荷量の増加に対する骨格筋への酸素供給のため微小血管数が増える必要性があり、VEGFがシグナル因子として働き血管新生作用を促進することで微小血管障害を予防したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 糖尿病は発症すると完治が難しいため、発症以前に徹底的に予防することが重要である。本研究により、糖尿病による微小血管障害の予防には継続的な持久運動が効果的であり、そのメカニズムには血管新生促進因子であるVEGFが関与することが示唆された。