理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
低侵襲人工膝関節全置換術後のT字杖歩行に影響を及ぼす術前因子の検討
中村 和司髙木 寛人松原 修山川 桂子松永 佑哉藁科 秀紀井上 英則
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p. Ca0211

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抄録
【はじめに、目的】 低侵襲人工膝関節全置換術(Minimally Invasive Surgery Total Knee Arthroplasty:以下,MIS-TKA)は従来の人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:以下,TKA)よりも早期リハビリテーションが可能となり,日常生活復帰が早くなることが特徴であり在院日数の短縮に繋がっている.また2010年4月の診療報酬改定にて回復期病棟に入院する場合,人工膝関節置換術は術後1ヶ月以内となった.そこで急性期病院では早期での退院あるいは転院の判断が求められるようになってきている.このことからも術前からの術後歩行を含め基本動作の獲得を予測することが重要である.その為, 今回の研究目的は術前因子から術後T字杖歩行との影響度や具体的な数値を検討することである.【方法】 2008年1月から2011年2月までにMIS-TKAを施行した41名41膝(女性41名). 術式はすべてMini-parapatellar approachである.術前歩行能力は日常生活においてT字杖歩行が主体であり,独力で連続400m歩行が可能なものを対象者とした.対象者の基本属性である年齢は74.0±6.9(58~86)歳.術前Body Mass Index:(以下,BMI)は26.0±3.7(20.0~37.0)kg/m2.術前日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準:(以下,JOAスコア)は45.6±7.8(35~65)点であった.術後T字杖歩行自立の基準は術後1週目における400m連続歩行とし,可能群と不可能群に分類した.対象者の術前筋力(膝関節屈曲・伸展筋力)は 最大努力下での等尺性筋力を2回測定し,その平均値を下腿長との積によりトルクを求め体重で除した値を(Nm/kg)とした. 筋力測定方法は徒手筋力測定器(Hoggan Health社製MICRO FET2)を用い,Bohannonらの方法を一部改良した肢位で,端坐位において両上肢は前胸部,股・膝関節屈曲90°とした.固定は,大腿遠位前面・体幹とした.抵抗は膝関節屈曲にて下腿遠位後面, 膝関節伸展にて下腿遠位前面とした. 術前可動域(膝関節自動屈曲・他動伸展・extension lag)はゴニオメーターを用い背臥位にて膝関節自動屈曲・他動伸展を測定し, extension lag は端坐位にて測定した値とした. なお,すべての計測を同一検者が行い検査値のばらつきを最小限とした.統計解析はT字杖400m連続歩行の可否を目的変数とし,基本属性(年齢,BMI,JOAスコア),術前筋力(膝関節屈曲・伸展筋力),術前可動域(膝関節自動屈曲・他動伸展・extension lag)の8項目を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った.抽出された因子についてROC曲線を用いてカットオフ値を求めた.いずれも有意水準5%未満とし,これらの統計処理にはDr.SPSS _for windows(IBM SPSS)を使用した. 【倫理的配慮、説明と同意】 本研究ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則および追加原則を鑑み,予め説明した本研究の概要,公表の有無と形式,個人情報の取り扱いについて同意を得た被験者を対象に実施した.【結果】 可能群は17名,不可能群は24名であった.ロジスティック回帰分析では,術前膝関節伸展筋力のみが抽出された.0.1Nm/kg増加に対するオッズ比は1.423であった. ROC曲線より膝関節伸展筋力のカットオフ値は0.89Nm/kgとなり,感度70.5%,特異度70.8%,正診率70.7%となった.【考察】 正常歩行において踵接地から立脚中期にかけて膝折れ防止目的で膝関節の伸展筋である大腿四頭筋の筋活動が活発になる為,TKA術後では術的侵襲である膝関節伸展筋の大腿四頭筋がより重要であることは容易に推察される. 全ての対象者の手術方法はMini-parapatellar approachである.手術方法は12cm未満の皮膚切開後,大腿四頭筋腱に沿って筋を切開し膝蓋腱温存の為,膝蓋骨の反転をさけ外側に膝蓋骨を脱臼させるapproachである. 従来法のTKAと比較して筋侵襲が少ないとされているMIS-TKAではあるが術後の膝関節伸展筋である大腿四頭筋の筋力低下はみとめる.従来法のTKAと比較してMIS-TKAの方が大腿四頭筋への術的侵襲が小さく,比較的筋力の温存が可能であると報告されている. MIS-TKAでは術後大腿四頭筋の温存が可能であり膝伸展機構が保たれる為,術前の膝関節伸展筋力がより重要だと思われる.その為,本研究では術後 T字杖歩行自立に術前膝関節伸展筋力の影響度が高かったのではないかと考えられる. また森坂ら(2008)も術前筋力が術後の筋力,膝関節屈曲角度,ADLと有意に正の相関があり,TKA術前の理学療法プログラムとして特に膝関節伸展筋力の強化が重要であると報告している.  MIS-TKAにおいては術後1週目におけるT字杖400m連続歩行の可否には,術前膝関節伸展筋力が重要であり0.89Nm/kgが目安になると思われる.【理学療法学研究としての意義】 本研究では術前因子からMIS-TKAにおいて術後T字杖歩行自立に影響する因子と数値化が目的であった.この結果を術後早期での退院あるいは転院の判別に用いる指標の一つとして今後活かしていきたい.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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