抄録
【はじめに、目的】 当院では骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折後偽関節に対する手術治療には内固定材による脊椎固定術とHA (hydroxyapatite) blockなどを用いた椎体形成術を併用した術式(以下;固定術)を主に行ってきたが、麻痺がない圧迫骨折に対して2011年から本邦でも施行可能となったBalloon kyphoplsty(以下;BKP)を行っている。そこで本研究の目的は、当院で行われたBKPと固定術の術後成績を比較検討することである。【方法】 脊椎圧迫骨折後偽関節と診断され2011年2月以降BKPを施行した5名(80±6.67歳、男性2名・女性3名)と、2011年1月以前に固定術を施行した9名(76.4±8.25歳、男性5名・女性4名)を対象に術後リハビリ開始期間、入院期間、リハビリ開始・終了時の腰痛疾患治療成績判定基準(JOA)、機能的自立度評価法(FIM)を比較検討した。統計学的検定はt検定を用い有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本調査はヘルシンキ宣言に基づき患者の了承を得て施行している。【結果】 術後リハビリ開始までの期間は、BKP群5.6±2.97日、固定術群5.0±1.3日(p=0.69)であり有意差はなかった。入院期間はBKP群16.6±4.04日、固定術群40±13.77日(p=0.0007)と有意にBKP群の在院日数が短かった。リハビリ開始時JOAはBKP群22.4±5.13点、固定術群9.4±6.02点(p=0.002)。FIMはBKP群118.8±6.34点、固定術群98.3±16.5点(p=0.022)。終了時JOAもBKP群24.6±3.78点、固定術群19.6±3.0点(p=0.02)と有意に早期からBKP群の成績が良好であり。終了時FIMはBKP群123.6±2.79点、固定術群118.4±8.2点(p=0.2)でBKP群の成績が良好な傾向にあった。【考察】 BKPは脊椎圧迫骨折後の偽関節に対し椎体内にバルーンを挿入し椎体内を押し広げ空洞を形成した後、骨セメントを注入する比較的新しい術式であり、術後の疼痛が少なく早期からのリハビリが可能であるとされている。BKPの適応は麻痺のない圧迫骨折とされ、固定術群との術前の麻痺の有無や適応に違いはあるが、今回の調査では従来の固定術群と比較し、リハビリ開始時からJOA、FIMの高得点が得られ、早期から積極的なリハビリが可能で、入院期間の短縮や早期家庭復帰につながる有用な治療法であった。しかし、骨セメントの漏出や前方移動による不安定性。また、骨セメントを充填した椎体と他の骨粗鬆症で脆弱した椎体との硬度の違いによる隣接椎体の骨折などのリスクも存在し、さらに、本邦では長期経過を観察した報告は存在しないため、今後も慎重に経過を追っていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 BKPは2011年から保険適用となった手術法で椎体整復や充填する骨セメントの安全な使用を目的とした早期から荷重・運動できる低侵襲手術手技であり、施術可能な施設も徐々に増加している。しかし、術後3年以上の長期観察された報告は存在しないため、今後も引き続き治療成績を慎重に比較検討することでリハビリテーションの負荷量や日常生活における注意点などの参考にする必要がある。