抄録
【はじめに、目的】 退行性疾患である変形性膝関節症(以下、膝OA)を抱える患者は700万人に上るとされており、本邦では主に一次性、二次性変形性膝関節症患者に対して人工膝関節置換術(以下、TKA)が行われている。TKAの適応となり手術を受ける患者の多くが、歩行、立ち上がり、階段昇降といったADLに困難を抱えている。膝OA、TKA前後のADL評価指標として一般的なJOA scoreやWOMACは、これらの歩行、立ち上がり、階段昇降を項目として取り入れており、ADLレベルの変化の評価が可能である。しかし、既存の評価指標では、動作レベルの変化を伴わない細かな能力変化に対しての評価が困難である。歩行、立ち上がりに対する定量的評価としては10M歩行やTimed “Up & Go” test(以下、TUG)が一般的であり、特にTUGは信頼性が高く、下肢筋力、バランス,歩行能力、易転倒性といった日常生活機能との関連性が高いことが証明され、運動器不安定症の指標となっている。これに対し、階段昇降の評価では、定量的な評価指標はなく理学療法を行う上で効果判定を行い難いのが現状である。また、これまでに階段昇降の定量的評価についての報告はみられない。そこで今回、TUGを基に階段昇降の定量的評価を作成し関連性を検討した。【方法】 対象は、当院においてTKAを施行した女性23名(年齢73.55±7.06歳、身長149.87±6.48cm、体重58.83±8.42kg)とした。測定項目は階段昇降、関連性を検討する項目として、TUG、10M歩行、膝伸展筋力とした。測定は当院の理学療法士により同一条件を設定して行われ、測定時期は術前、TKA術後1週、2週、3週とした。TKA 後の理学療法は、当院TKA後標準プログラムに従い各対象者に対して同様に行われた。階段昇降とTUGの関連性の検討についてpearson相関係数を用いた。また他因子との検討として、10M歩行、膝伸展筋力との関連性についても同様に検討した。階段昇降の測定は、階段より50cm離れた場所にアームレスト付の座面40cmの椅子を設置し、階段は蹴上13cm×5段のリハビリ練習用階段を使用した。座っている状態から開始し、昇段、踊り場で方向転換を行い、降段し椅子に着席するまでの時間を2回測定し、平均値を使用した。手摺の使用、昇降様式については問わないものとした。10M歩行の設定は10M歩行を2回行った平均値とし、杖使用の有無を問わないものとした。膝伸展筋力の測定はMicro FET (Hoggan health industries社製)を用い、膝屈曲60°から最大等尺性収縮を3回行った平均値とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行い、対象者には研究内容及びリスクについて説明し同意を得た。【結果】 階段昇降とTUGの相関は0.83、階段昇降と10M歩行の相関は0.68、階段昇降と膝伸展筋力の相関は0.54であった。各測定時点での階段昇降とTUGの相関は術前0.71、術後1週は0.78、2週は0.77、3週は0.85であった。階段昇降の各測定時点での平均値は、術前16.01秒、術後1週の平均値は21.70秒、術後2週18.59秒、術後3週14.90であった。【考察】 結果より、本研究条件下での階段昇降評価指標は、全測定と各測定時点共にTUGと高い相関を示し関連性が認められた。また10M歩行及び膝伸展筋力とも相関を得たことより、膝OA、TKA後のADL評価指標としての妥当性が高いものと考えられた。TUGとの関連性が認められた要因としては、筋力や関節可動域といった単体の項目から構成されるものではなく、複合動作として評価したことが要因と考えられた。また、TUGと同じく椅子着座位からの立ち上がり・座り込み動作を含み、手摺使用の有無や昇降段様式を問わないなど、個々の能力に合わせたADL遂行時間を測定していることも要因として考えられた。米田らによれば、階段昇降動作は片足立バランス能力と関連が大きいとしており、青木らは、昇段能力と等尺性膝伸展筋力の間に密接な関係があるとしている。これらの項目はTUGとの関連性も報告されており、同様に関連性の高い要素を含むことが本研究において関連性を得た要因の一つと考えられた。今後の展望としては、本研究では蹴上13cm段×5段のリハビリ練習用階段を用いて行ったが、現行の練習用階段は制作メーカーによって蹴上高さが12-15cmと幅がある為、他の蹴上高さの階段においても同様の結果が得られるか検討が必要である。また妥当性、信頼性に加え、ADL、バランス項目との関連性、カットオフ値についても今後検討の必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 定量的な評価が可能となることにより、リハビリ効果の検討や患者への目標の提示の際の一助になると考えられた。