理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
効率的な多裂筋の筋力強化法の再考
今 絵理佳
著者情報
キーワード: 体幹筋力, 筋電図, 多裂筋
会議録・要旨集 フリー

p. Cb0742

詳細
抄録

【はじめに、目的】 腰痛治療に用いられる腰痛体操については数多くの研究がされているが、その多くは背臥位や腹臥位で行うストレッチや筋力強化運動である。従来からの腰痛体操による体幹筋力強化法は主に表在筋を鍛えるものであり、疼痛の強い者や脊椎の変形が高度な高齢者では運動肢位を取ることが困難であり負荷量も強いため、実際の臨床現場では実施に難渋する例が多い。近年では、腰痛患者においては多裂筋の筋萎縮や機能不全が発症早期よりみられることが示されており、多裂筋など深層筋による脊柱の支持性を向上させる目的とした腰部脊柱安定化エクササイズ(以下、安定化エクササイズ)が幅広く実施されている。安定化エクササイズの中で、高齢者でも実施可能なものとして四つ這い位でのエクササイズが推奨されており、その体幹筋活動量について多くの報告がなされている。しかし、何れも健常成人における結果の報告であり、高齢者を対象とした安定化エクササイズ中の筋活動量については一定の見解は得られていない。本研究では、健常成人と健常高齢者を対象として、四つ這い位で行われる従来の安定化エクササイズ中の体幹筋活動の関連性を比較検討し、高齢者に対するより効果的な多裂筋の筋力強化方法を明らかにすることを目的とした。【方法】 腰部に整形外科的異常を認めない健常成人男性20名(平均年齢22.0±2.5歳)、健常高齢男性10名(平均年齢69.8±5.1歳)を対象とした。表面筋電計Noraxon社製Myo-Research-XPを用い、安定化エクササイズ中の多裂筋部(L5)、上・下部脊柱起立筋部(Th12、L3)の筋活動量を測定した。なお、予備実験により本研究で得られる筋活動量には左右差が無いことを確認し、全て右側の筋活動量を1,000Hzで導出した。運動課題は、被験者には四つ這い位の上下肢挙上、上半身をベッドで支持した四つ這い(以下、支持四つ這い)での下肢挙上をそれぞれ3回ずつ5秒間行わせた。各筋からの筋電位を導出し、整流化した後、波形の安定した中間の1秒間について積分しIntegrated Electromyography(IEMG)とした。IEMGは、Danielsらの徒手筋力検査法のNormalの手技を各筋の100%MVCとし、各エクササイズ時の%MVCを算出した。統計学的処理は、各エクササイズ時の%MVCの比較には分散分析、健常成人と高齢者との比較は差の検定を用い、全て有意水準を5%として検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 研究の目的と内容を対象者に説明し、文書により同意を得た。また、収集したデータは個人が特定されないよう配慮した。なお、本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を得て実施した(第23712号)。【結果】 健常成人において四つ這い位では右下肢挙上や左下肢と右上肢の同時挙上と比較し、右下肢と左上肢の同時挙上の方が多裂筋の高い筋活動が認められた(p<0.05)。 健常成人の上部脊柱起立筋においては右下肢挙上と右下肢と左上肢の同時挙上の方が左下肢と右上肢の同時挙上より低い値を示した(p<0.05)。一方高齢者においては多裂筋、脊柱起立筋部ともエクササイズによる有意差は見られなかった。また、通常の四つ這い位での右下肢挙上と比較し、支持四つ這い位での右下肢挙上の方が、健常成人、高齢者ともに多裂筋部の高い筋活動が認められた。通常四つ這いでは健常成人43.7±17.5%、高齢者53.3±15.7%であり、支持四つ這い位では健常成人55.8±19.2%、高齢者64.0±17.6%であった(p<0.05)。健常成人では上部脊柱起立筋部において支持四つ這い位での右下肢挙上の方が有意に低い値を示した(p<0.05)。一方高齢者ではエクササイズによる有意差は見られなかった。【考察】 先行研究においては、健常成人の多裂筋部の四つ這い位での右下肢と左下肢の同時挙上は約30~48%MVCとされており、本研究で用いた支持四つ這い位ではそれ以上の高い筋活動が示された。 このことは、上半身を支持することで、脊柱起立筋の活動が抑えられ深層筋である多裂筋がより選択的に収縮することにより、安定性を一層高めることが可能であると考えられる。この結果は、姿勢が安定することにより目的とした深部筋活動がより発揮し易くなることが複数幾つかの研究でも示されており、表在筋による支持が減少した分、深層筋である多裂筋部の活動が高まったためと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 高齢者では上半身を支持することで姿勢を保持することが容易となり、表在筋である脊柱起立筋の活動が抑えられて深層筋である多裂筋の筋活動が高められ、安全で効果的な安定化エクササイズが実施可能となる。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top