理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
下肢切断リスク別に見た下肢外科的血行再建術後の心血管系有害事象の出現頻度に関する調査
河野 健一林 久恵伊藤 真也熊田 佳孝古橋 究一
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p. Da0997

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抄録
【はじめに、目的】 2006年診療報酬改訂以降,心大血管リハビリテーションとして下肢動脈外科的血行再建術後の患者に対し,理学療法士が関わる機会が増えてきた.同血行再建術は末梢動脈閉塞性疾患(peripheral arterial disease: PAD)に対して行われるが,PADは全身性の動脈硬化の一部分症にて、下肢動脈病変が進行している症例は、心血管イベント発症リスクも高いため[Norgren L et al.,J vasc surg. 2007],対象者のリスクレベルを考慮した上で理学療法介入を行なう必要があると考える.しかし,これまでPAD患者を対象としたリスクの層別化に関する検討は下肢切断に焦点を当てて行われてきた経過があり,心血管系有害事象の出現リスクの視点から行われた先行研究はない.そこで,本研究では下肢切断リスクスコアを用いて対象者を分類し、下肢外科的血行再建術後の心血管系有害事象の出現頻度に関する調査を行った.【方法】 対象は2005年1月から2011年2月にdistalバイパスを施行した連続症例125例(男性81例,女性44例,平均年齢67.8歳)とした. PAD患者の下肢切断に対するリスクの層別化は, PREVENT3(以下P3)リスクスコア[Schanzer A et al.,J vasc surg. 2008]を使用した.P3リスクスコアは,維持透析4点,組織壊疽3点,75歳以上2点,ヘマトクリット30%以下2点,冠動脈疾患1点として,合計点数を算出した.算出したリスクスコアに基づいて,対象者を高リスク群(8点以上)77例と,中・低リスク群(7点以下)48例に分類し,2群間で1.心停止,2.意識消失,3.心室性不整脈(Lown分類Grade3以上),4.血圧上昇と低下の出現状況を比較した.血圧上昇についてはアンダーソン・土肥の基準に基づき、収縮期血圧40mmHgまたは拡張期血圧20mmHg以上の上昇みられた場合と定義し,血圧低下については,日本循環器学会のガイドラインに基づき収縮期血圧20mmHgまたは拡張期血圧10mmHg以上の低下が見られた場合と定義した.1~5の出現状況は診療録より後方視的に調査し,リハビリテーション(以下リハビリ)中に出現したものか病棟生活中(以下病棟)に出現したものかについても調査を行った.統計学的解析はχ2検定を行い,危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、匿名で診療情報の解析を行うことに関して,担当医による説明と院内掲示を行い,包括的同意を得ている.【結果】 高リスク群は中・低群と比較し意識消失の出現頻度が有意に高く(高リスク群17%vs中・低リスク群4%,p=0.02),また心停止の出現頻度も高い傾向(高リスク群14%vs中・低リスク群4%,p=0.06)にあった.上記事象は病棟に確認された. 一方リハ中の有害事象の出現頻度は病棟に比べて低く,高リスク群と中・低群の間で有意差は認められなかった.【考察】 病棟生活において,P3にて高リスクに分類された対象者は,意識消失や心停止が高率に見られることが確認された.また,これらの事象がリハビリ中に確認される頻度は病棟比較して相対的に低いという結果が得られた.しかし,リハビリ実施時間は病棟生活時間と比較すると非常に短いため,病棟生活中に起きた有害事象がリハビリ中に起きる可能性は十分に考えられる.よって,P3スコアにて高リスクと判定されるPAD患者については,リハビリ中に心血管イベントが生じる可能性があることを念頭におき,病棟での経過を確認したうえで十分なリスク管理の下,リハビリを実施する必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 理学療法士は心大血管リハビリテーションとして,複数の動脈硬化性疾患が併存するPAD患者を対象とする機会が増えているが,心血管系の有害事象の出現状況やリスク管理についての報告が少ないのが現状である.本研究によって,P3のリスクスコアにて高リスクに分類される症例は,病棟生活での心血管系疾患に伴う重症な有害事象の出現頻度が高いことが明らかとなった.これは,当該集団が下肢切断のみならず,病棟生活やリハビリ中のリスク管理においても配慮を要する状態にあることを示唆するものであり,PAD患者にリハビリを実施する際のリスクの層別化の意義を提言するものである.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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