理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
大動脈術後の対麻痺症例に対する理学療法介入について
─歩行獲得に影響を与えた因子─
加藤 真弓舟見 敬成根田 真澄菅野 恵緑川 博文渡邊 晃祐
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キーワード: 大動脈術後, 対麻痺, 透析
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p. Db0553

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抄録

【はじめに】 大動脈術後の対麻痺は脊髄動脈の虚血や閉塞が原因とされ、Adamkiewicz動脈の同定や脊髄遮断時間の短縮、肋間動脈の再建など近年発症リスク軽減の研究がすすんでいる.対麻痺を発症した場合、麻痺の改善やADL向上には理学療法介入に期待されるところが大きいが報告は少ないように思われる.今回、2009~2011年までに当院で発症した対麻痺5症例の経過から理学療法の関わりについて報告する.【方法・結果】 症例1 70代男性 腹部大動脈瘤術後、下行胸部大動脈瘤未治療.弓部大動脈瘤に対しTotal arch replacement with open stent-grafting(以下open stent)施行.術後2日より介入開始.MMT2レベルの対麻痺、両下肢の重度感覚鈍麻を認める.術後9日自力端坐位保持が可能となる.徐々に抑うつ傾向となり離床に消極的な場面もみられるようになるがベッド上で自立できるADLの提案や環境設定を行い、術後18日手すり歩行可能、術後33日病棟内独歩自立にて自宅退院となる.症例2 60代男性 腹部大動脈瘤術後.Stanford B型大動脈解離および弓部大動脈瘤にてopen stent施行.術後3日より介入開始.MMT2/1(R/L)レベルの対麻痺、両下肢の重度感覚鈍麻、膀胱直腸障害を認める.術後12日よりベッド端座位での食事が可能となり活動機会が向上するが歩行困難な状態への失意や不安で抑うつ傾向がみられる.少量頻回の介入を実施.術後50日歩行器歩行見守りレベルとなり術後58日回復期病院転院.その後屋内歩行自立し転院より4ヶ月後自宅退院.症例3 70代男性 Stanford A型大動脈解離および心タンポナーデにて人工血管置換術を緊急施行.術後5日より介入開始.MMT2レベルの対麻痺、両下肢の重度感覚鈍麻を認める.術後8日自力端座位保持が可能となるが抑うつがあり頻回に声をかけ活動機会を確保する.術後35日T字杖歩行自立にて回復期病院転院.症例4 60代男性 透析3回/週実施中.下行胸部大動脈瘤、腸骨動脈瘤にて胸部ステントグラフト内挿術、腹部人工血管置換術施行.術後5日より介入開始.MMT2/3(R/L)レベルの対麻痺、両下肢の重度鈍麻を認める.易疲労性のため透析のない日の介入となる.倦怠感が強く離床できないことが多く、自力での寝返りは可能となったがベッド上での自発的な活動はほとんどなかった.術後43日自力端座位保持が数秒可能なレベルにて透析病院へ転院となる.症例5 80代男性 腹部大動脈術後、透析3回/週実施中.下行胸部大動脈瘤にて人工血管置換術施行.術後2日より介入開始.MMT2レベルの対麻痺、両下肢の重度感覚鈍麻を認める.易疲労性で透析のない日のみの介入となり十分な離床が進まず、術後24日ADL 全介助レベルにて透析病院へ転院となる.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は実施するにあたり、個人情報収集の目的と利用の範囲について説明と同意を得ている.【考察】 一般に下行胸部大動脈や胸腹部大動脈の術後では対麻痺合併のリスクが高いといわれているが、今回の症例もこれらに当てはまるハイリスク症例であった.5症例とも術直後重度の対麻痺がみられたが3症例は歩行獲得に至り、2症例は困難であった.前者では理学療法の積極的な介入が行えたことで自力端座位保持を比較的早期に獲得し自主的な活動機会を増やすことができ、廃用症候群の進行を予防できたと思われた.このことが歩行獲得やADL向上へつながった大きな要因と考えられた.一方、後者ではどちらも透析を行っており易疲労性で理学療法介入が十分に行えず、自主的な活動機会を確保することができなかった.透析患者では通常の患者と比べ易疲労性や不均衡症候群などの影響で理学療法介入を難しくしているとの報告が多く、運動耐容能は心不全やCOPDの同程度まで低下しているともいわれている.この状況に手術による負荷が加わりますます易疲労性を強める結果になったと思われた.また、麻痺が改善過程にあっても歩行可能となるまでの間に抑うつがみられる傾向があった.抑うつは活動性低下を招く危険があるため、活動性低下による廃用がすすまないよう精神的ケアを行うことも理学療法を行う上で重要と考えられた.【理学療法学研究としての意義】 大動脈術後の対麻痺症例に対し術後早期に自力端座位保持を獲得し自主的な活動機会を増やすことにより、術直後に重度な対麻痺を発症しても改善が見込まれると考えられた.また、透析を行っている患者の離床をすすめる有効な介入方法の検討が課題となった.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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