抄録
【はじめに】 造血幹細胞移植患者は、大量の抗がん剤治療や、無菌室での安静などによ身体的障害を来たすことが多く、廃用症候群の予防としてリハビリテーションは重要である。移植後の身体機能に関する報告は、下肢筋力や持久力についてのものが多く、それらに影響を及ぼすと思われる筋肉量に関するものは少ない。今回、体組成計を用いて移植前後での筋肉量などの体組成変化について検討した。【方法】 対象は、平成22年2月から平成23年7月までに当院で同種造血幹細胞移植を受けた36例のうち、移植前後に運動療法を実施し、体力・体組成測定が行えた16例である。男性10名、女性6名、平均年齢55.9±8.6歳、疾患名はATL 8例、AML 3例、MDS 4例、ALL 1例で、移植方法はフル移植5例(平均年齢51.0±13.0歳)、ミニ移植11例(平均年齢58.1±5.1歳)であった。運動療法は、理学療法士が1回20-40分程度、週5日実施した。体力測定は、6分間歩行距離(6MD)と握力、体組成測定は、体重と生体電気インピーダンス体組成測定機器Physion MD(フィジオン社製)を用い筋肉量、筋肉率、脂肪量、骨量、水分量を測定した。これらの評価は、移植約2週間前と移植後(無菌管理解除後1-2週間)に行った。移植前後の体力・体組成変化、体組成変化と臨床的パラメータ(血清アルブミン値[Alb]、ヘモグロビン値[Hb]、体重)との関連性を検討した。統計処理は、t検定、ピアソンの相関係数の検定を用い、有意水準5%未満で検定した。また、移植後の体組成変化率(%)は、(移植後-移植前)÷移植前×100で求めた。【説明と同意】 対象者には、研究の趣旨を説明し同意を得て行った。【結果】 移植後の体力と体組成評価までの平均期間は、移植後40.3±15.7日であった。移植前後の体力変化は、6MDで移植前468±72.2m、移植後 458.6±75.2m、握力で移植前26.3±7.5kg、移植後 24.0±7.4kgであった。移植後の体力のうち、6MDは維持されたが、握力は低下した(p= .025)。移植後の体組成の変化率は、全身の筋肉量で平均 -2.9%であった。部位別では、上肢 -4.9%(上腕 -5.8%、前腕 -3.4%)、下肢 2.7%(大腿 -1.1%、下腿 10.5%)、体幹 -6.2%であった。その他の項目では、筋肉率 -0.7%、脂肪量 -10.2%、骨量 -4.6%、水分量 1.5%、体重 -4.1%、Alb -10.4%、Hb 0.14%であった。移植後において上肢筋肉量(p= .034)、体幹筋肉量(p= .044)、体重(p= .000)、脂肪(p= .018)、Alb(p= .001)などが有意に低下した。筋肉量と臨床的パラメータとの関連では、体重(r = 0.69)にのみ相関関係を認めた。【考察】 同種造血幹細胞移植前後で運動療法が実施できた患者の筋肉量変化について検討した。移植前より理学療法士による立位・歩行を中心とした運動療法を継続することにより、握力は低下したものの6MDは移植後も維持することができた。移植後の筋肉量(体組成)変化では、上肢・体幹における筋肉量が有意に低下していたが、下肢筋肉量については増加していた。筋力トレーニング・立位・歩行練習などの運動療法の継続によって下肢筋肉量の増加がみられ、6MDなどの歩行能力維持に関与したと考えられる。筋肉量変化の部位別の検討では、末梢部に比べ体幹・上腕といった中枢部筋肉量の低下が大きいことも確認できた。これらの筋肉量低下の要因として、活動性低下・低栄養状態などの影響が考えられるが、今回の検討では、筋肉量の低下と関連するものは体重以外に明らかにすることはできなかった。移植患者の移植後の筋肉量低下に関して、体幹などの中枢部に影響をより受けており、全身の筋力トレーニング・持久力トレーニングに加え、中枢部へのトレーニングの重要性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】 造血器腫瘍患者における移植適応は拡大しており、移植後の体力・QOL低下防止のための理学療法は重要である。移植後の身体機能に関する報告では、筋力・体力変化に関するものが多く筋肉量変化についての報告はほとんどない。筋力・持久力評価は、主観的要因が影響する評価であるのに対し、より客観的な評価である筋肉量変化についての報告は有意義であると思われる。本研究は、移植患者の筋肉量変化を明らかにし、予防のためのアプローチの一助としての意義があると考えられる。