理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
移乗介助におけるリフト使用の有無と習熟度による身体的負担の比較
阿部 敏文樋口 由美
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キーワード: 移乗介助, リフト, 腰痛
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p. Ea0350

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抄録
【はじめに、目的】 介護従事者の7~8割もの人には腰痛歴があり,介護従事者に多発する腰痛を防ぐ移乗・移動技術が提供できれば,介護従事者および利用者の双方に大きな福音をもたらすこととなる.そこで本研究では1)移乗介助機器を用いない徒手による移乗と,リフト使用時で介護者の身体的負担を比較すること.2)リフトの適切な使用方法を習得する前後での介護者の身体的負担の比較を行うこと.この2点を目的とした.【方法】 介護者役としてリフト使用経験のない女子学生7名(平均年齢19.0歳)を対象とした.移乗内容は,車椅子からベッドへ移乗させ,端座位とさせたところから背臥位をとらせるまでとした.測定条件は(1)徒手による移乗(全介助),(2)リフトの適切な使用方法習得前(指導前),(3)習得後(指導後)と設定し,それぞれの条件ごとに準備相・移動相・調整相の3相に分けた.準備相は,介助者もしくはスリングが被介護者の身体の一部に触れてから被介護者の臀部が離床するまで.移動相は,被介護者の臀部離床から被介護者の身体の一部がベッドに接触するまで.調整相は,被介護者の身体の一部がベッドに接触してから最終的な背臥位をとるまで,とそれぞれ設定した.これら3条件の移乗における表面筋電図・所要時間・体幹傾斜角度を測定し95%tile値を代表値とした.表面筋電図の測定部位は左右上部僧帽筋,左右脊柱起立筋TH12-L1,L3-4とした.これらを一元配置分散分析および多重比較(LSD)し,有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に本研究の目的および内容について十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 表面筋電図について,上部僧帽筋での調整相では全介助,指導前,指導後と順に有意に減少していた.TH12-L1については全介助,指導前,指導後と減少傾向にあり,右TH12-L1の移動相において全介助が指導前と比較して有意に高かった.L3-4について,移動相・調整相においては全介助,指導前,指導後と減少する傾向にあった.左側の移動相,調整相ではそれぞれ全介助と指導前,指導後との間に有意差がみられ,全介助が有意に高かった.体幹傾斜角度について,移動相において全介助,指導前,指導後の順に傾斜角度が小さくなった.特に全介助と指導後では指導後で有意に小さくなった.所要時間について,3相全てにおいて全介助がもっとも所要時間が短かった.また3相全てで指導後は指導前と比べて所要時間が短くなっており,準備相において有意に短縮されていた.全所要時間では,全介助と比較して指導前は約8倍,指導後は約6倍の時間が必要となった.指導前と指導後を比較すると約2割短縮される結果となった.指導前・指導後において全所要時間の約6割を準備相が占めていた.【考察】 リフトの適切な使用方法を習得することで上肢・腰背部の負担が軽減されることが明らかとなった.所要時間については準備相の占める割合が大きく,使用方法の習熟や簡便なスリングの使用によってより短縮することができると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 リフトの適切な使用によって介助者の身体的負担を軽減可能なことが明らかとなった.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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