抄録
【はじめに、目的】 腰痛の保存療法のひとつに装具療法があり、腰部を固定する様々な種類の装具が存在する。腰椎ベルトのように腹圧を高める装具では、腰椎の可動域が制限されることから、労作時の使用に不具合が生じる場合がある。そのため、脊椎の可動性を必要以上に制限しないように、強固な固定ではなく良姿勢を意識させるシャツタイプの装具が開発されている。腰痛に対する装具の適応や種類の選択に関しては不明な点が多い。本研究の目的は、2種類の装具を用いて、腰痛と姿勢の変化について比較検討することである。【方法】 対象は、numerical rating scale (NRS:全く痛くないを0、考えられる最も強い痛みを10の11段階で評価)で、3以上の腰痛を有する看護師20名とした。男5名、女15名、平均年齢は35.8±8.1歳であった。対象者を無作為に、通常の腰部固定帯を装着する群(YB群)とシャツタイプの装具を装着する群(SA群)の2群に割り付けた(各群10名)。装具装着前と1ヶ月後に、背筋の筋疲労、脊椎のアライメントおよび身体負荷を評価した。筋疲労は左右の傍脊柱筋の筋活動の周波数を筋電計で測定し、筋疲労(mean power frequency :MPF)を解析した。脊椎のアライメントは、スパイナルマウスを用いて、立位時の胸椎と腰椎の後弯角の差(正の値:後弯、負の値:前弯)を測定した。測定は歩行負荷前後で2回行い、それらの変化を比較した。歩行負荷は、装具を未装着で、速度3.0km/時、歩行路面角度5%で、20分間のトレッドミル歩行を行った。さらに、心拍数と歩行速度から歩行効率(PCI) を算出した。装具装着前後での、腰痛の程度、Roland-Morris Disability Quesionnaire (RDQ)、および日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)を用いて腰痛関連QOLを調べた。統計学的解析にはStudent’s t testを用いて、危険率(p)が0.05未満を有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】 今研究は当大学の倫理委員会によって承認され、被験者には事前に内容を説明し、文書による同意を得た。【結果】 装具装着前は、腰痛の程度、PCI、および姿勢変化に2群間で差はなかった。装具装着1ヶ月後のMPFの傾きの差は-0.5~0.5の範囲にあり、2群とも歩行負荷による傍脊柱筋の筋疲労は起こさなかった。YB群では、SA群と比較して筋疲労は少ない傾向にあったが、有意差はなかった。装具装着前における歩行負荷前後での脊椎アライメントは、2群ともに胸椎が前弯(-2.1~-2.5°)に、腰椎が後弯(0.8~1.3)になっていた。しかし、装具装着1ヶ月目の歩行負荷前後では、SA群で胸椎(+3.1°)と腰椎(-3.1°)ともに生理的弯曲が保たれていた。一方、YB群では、胸椎(-3.0°)と腰椎(+0.7°)で生理的弯曲が保たれていなかった。装具装着1ヶ月目のPCIでは、初回と比較してSA群で身体疲労が軽減する傾向にあったが、有意差はなかった。2群間で、腰痛の程度、RDQおよびJOABPEQは、装具装着前後で有意な改善はなかった。【考察】 本研究の結果から、装具装着1ヶ月の時点では、腰部の腹圧を高める固定を行わなくても腰痛の悪化は認められなかった。歩行負荷による脊椎アライメントの変化では、シャツタイプの装具により生理的弯曲が保たれたことから、シャツタイプの装具が姿勢保持に有利であることが示唆された。2群ともに、装具装着1ヶ月の時点で腰痛の改善が認められなかったが、特にシャツタイプの装具は生理的弯曲が保たれ、日常生活動作の1つである歩行による身体疲労が、軽減する傾向にあることから、腰椎への負荷は軽減できていると考えられる。そのため、装着による効果を期待するには、さらに長期の検討が必要と考えられる。【まとめ】 シャツタイプの装具は、従来の腰椎ベルトより姿勢保持に関しては有用である可能性がある。