抄録
【目的】 Falls Efficacy Scale(FES)は対象者の転倒恐怖感を評価でき、評価の信頼性および妥当性が報告されている。また、転倒恐怖を有する者は姿勢制御方法が変化することも報告されている。このFESには動作能力やパーソナリティ、転倒リスクとの関連がある。しかし、FESは転倒に対する主観的感覚を評価するものであり、より直接的に客観的な評価との関連を調査することが重要である。そこで、本研究ではTinettiらの10項目のFESを使用し、対象者による通常の主観的評価に加え、その担当セラピストに同様にFESを「対象者がどの程度転倒せずに動作を行えるか」に基づき、客観的評価をし、前記2項目およびその差異と動作能力、運動イメージ能力、歩行自立度との関係性を検討することを目的とした。【方法】 対象は、脳血管疾患により片麻痺を呈した17名である(年齢68.4±13.1歳、発症からの期間40.0±13.8日)。なお、顕著な高次脳機能障害、認知症を有する者はいなかった。調査項目はFES、動作能力として麻痺側下肢荷重率、Functional Balance Scale(FBS)、10m快適および最大歩行時間、Timed Up and Go test(TUG)の快適および最大速度条件、また、10m歩行とTUGの心的歩行時間を測定し、実際時間との差分を運動イメージ能力とした。FESは対象者本人に通常に採点してもらう方法(主観的FES)と、その担当セラピストに上記のように採点してもらう方法(客観的FES)およびその差異(FES差)を得点化した。なお、FESは得点が高いほど自信があるように改変して使用した。統計学的解析は、主観的FESと客観的FESの比較をWilcoxon検定とt検定で検討した。歩行自立群と非自立群の比較にはt検定とMann-Whiteny検定を行い、各項目間の相関関係をPearsonとSpearmanの相関係数から検討した。また、主観的FESを制御変数とした偏相関係数も算出した。群間差の認めた項目から歩行自立度を従属変数としたロジスティック回帰分析(尤度比による変数減少法)を行い、有意な項目として採択されたものをROC曲線から歩行自立のカットオフ値を求めた。解析にはSPSS18.0J for Windowsを使用し、有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者には事前に研究の概要を説明し、理解を得た後、研究参加の同意を得た。【結果】 主観的FESと客観的FESに有意差が認められた(78.9±19.3 vs. 68.1±13.5点:p<.05、効果量r=.61)。また、歩行自立群に主観と客観FESに差があり(85.6±12.8 vs. 75.4±12.3点:p<.01、効果量r=.87)、非自立群には差がなかった(73.0±22.7 vs. 61.6±11.5点:p=.183、効果量r=.26)。また、歩行自立群と非自立群の比較において、客観的FESとFES差のみに有意差が認められ(p<.05、効果量rはそれぞれ.53と.62)、動作能力および運動イメージ能力には自立群と非自立群で有意差がなかった。主観的FESはFBSと有意に相関(r=.666)し、客観的FESは主観的FES、FBSおよびFES差と有意に相関(それぞれr=.698、.689、-.518)した。偏相関では客観的FESとBIにおいて相関係数の増加がみられ(r=.378から.508へ)有意な傾向を示した(p=.053)。さらに自立群と非自立群に分け相関係数をみると非自立群では主観的FESと客観的FESはr=.176だが、自立群ではr=.882と有意に相関した。歩行自立群と非自立群の比較で有意差のあった客観的FESとFES差を独立変数としたロジスティック回帰分析ではFES差のみが採択された(p<.05:偏回帰係数0.231、定数-3.416:オッズ比1.260、95%CI 1.007~1.578:判別的中率82.4%)。歩行自立のカットオフ値はFES差が15.5点となり感度および特異度は87.5%および77.8%であった。【考察】 主観的FESと客観的FESの比較において、対象者は担当セラピストが考えるより有意に転倒しない自信を有していることが示唆される。また、歩行自立群と非自立群と分けても対象者の自信が高い傾向は残り、特に自立群で有意差があった。偏相関では客観的FESとBIの関係性が改善した。これは、担当セラピストが対象者のパーソナリティなども考慮しFESを得点化しているためであると考える。歩行自立群と非自立群の比較より、客観的FESとFES差のみに有意差が認められた。これから、今回の対象者は比較的動作能力が高く、従来の歩行自立のカットオフ値周辺の動作能力を有している者が多いと推測できる。その中でも、FES差は歩行自立度を従属変数としたロジスティック回帰分析でも採択され、比較的良好なカットオフ値を得た。これは、動作能力や運動イメージ能力だけでは判断できないような、歩行自立の境界域にいる対象者でも、対象者の転倒に対する恐怖感と担当セラピストの客観的FESの差異から、歩行自立の判断が可能なことを表している。【理学療法学研究としての意義】 従来のFESのみでなく、他者評価によるFESおよびそれの差異を考慮することが重要である。