理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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若年成人を対象とした乗馬シミュレータによる運動介入効果
三谷 保弘高嶋 厚史永野 巧嶋田 綾上野 美怜有本 渚
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p. Eb1235

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抄録

【はじめに、目的】 近年、我が国では乗馬シミュレータが開発され健康増進の手段として普及しつつある。しかし、乗馬シミュレータを用いた運動介入が身体にどのような影響を及ぼすかについては十分な検討がなされていない。健康増進に対する関心が高い我が国では、中高年者のみならず若年者に対しても運動介入の効果を検討する必要性があると考えられる。そこで本研究では、若年成人に対して乗馬シミュレータを用いた運動介入を一定期間実施し、平衡機能および歩行能力に及ぼす影響を検討することを目的とした。【方法】 対象は、整形外科的および神経学的症状を有さない健常な若年成人29名とした。対象者を乗馬シミュレータによる運動介入を行う群(運動群)14名(男性8名、女性6名、年齢20.4±0.9歳)と、行わない群(非運動群)15名(男性6名、女性9名、年齢20.3±1.0歳)の2群に無作為に割り付けた。運動群には乗馬シミュレータ(JOBA EU6414、松下電工社製)による運動を週3回実施した。1回の運動時間は15分間とした。一方、非運動群には椅子での安静座位を週3回実施した。1回の座位時間は15分間とした。いずれの群も介入期間は4週間とし、介入期間の前後には10m歩行テスト、Functional Reach Test(FRT)、重心動揺検査を実施した。10m歩行テストは自然歩行および最大歩行の歩行時間と歩数を実測し、得られた結果から歩行率と歩幅を算出した。FRTはDuncanらの方法に従い実施し、測定値を身長で除した値(身長比)にて求めた。重心動揺検査は、安静立位、前足部および後足部荷重での立位をそれぞれ10秒間保持させ、総軌跡長、前後および左右成分の軌跡長を重心動揺計にて測定した。介入期間前後における測定値の差の検定は、Shapiro-Wilk検定による正規性の有無に従い対応のあるt検定あるいはWilcoxonの符号付順位検定を行った。有意水準は0.05とした。統計解析にはSPSS 12.0J for Windowsを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者には研究目的と内容の説明を口頭および文書にて行い、研究同意書への署名により研究参加の同意を得た。また、研究代表者所属施設の研究倫理委員会により研究実施の承認を得た(承認番号21-5)。【結果】 運動群の各測定項目の結果、最大歩行の歩行時間は介入前が4.2±1.0秒、介入後が3.8±0.9秒であり有意差を認めた(p<0.01)。また、最大歩行の歩行率は介入前が174.2±38.8steps/sec、介入後が191.9±37.6steps/secであり有意差を認めた(p<0.05)。しかし、その他の測定項目には有意差を認めなかった。一方、非運動群では全ての測定項目において介入期間前後の有意差を認めなかった。【考察】 今回、乗馬シミュレータを用いた運動介入により最大歩行における歩行時間の短縮と歩行率の増大を認めた。歩行率は歩行速度を規定する一要因であり、歩行速度の増大に伴い歩行率は大きくなる。歩行率を増大させるためには素早く律動的な下肢の振り出しが必要であるが、その動きに適した体幹運動も同時に必要となる。素早く律動的な下肢の振り出しに対応するためには、歩行における時間的損失を減じるためにも体幹の動揺を制御する必要があると考えられる。したがって、歩行率を増大させ歩行時間を短縮させるためには体幹の動揺を制御するべく体幹機能が必要であると考えられる。乗馬シミュレータの揺動刺激は体幹運動を誘発させるが、その刺激に対して身体の平衡を保持するために過度な身体動揺を制動させる必要があると考えられる。したがって、乗馬シミュレータの揺動刺激は、体幹筋の活動を増大し体幹機能を向上させる効果を有すると考えられる。これらのことから、今回得られた乗馬シミュレータによる運動介入効果は、体幹機能の向上に伴うものであると推察できる。ただし、FRT、重心動揺検査では有意な向上を認めなかった。前方へのリーチ姿勢や前足部および後足部荷重の姿勢を保持するためには、体幹はもとより下肢の機能が多大に影響したのではないかと考えられる。したがって、乗馬シミュレータを用いた運動介入は体幹機能を向上させ歩行能力の向上に関係すると示唆されたものの、運動効果の限界を十分に理解して使用しなければならないと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 乗馬シミュレータによる運動介入が若年成人の歩行能力を向上させたことから、本運動介入が健康増進のみならずリハビリテーションの手段としても応用できる可能性が示唆された。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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