理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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肥満を伴ったサルコペニアは歩行機能と強く関連するか
吉田 大輔島田 裕之阿南 祐也牧迫 飛雄馬土井 剛彦堤本 広大上村 一貴鈴木 隆雄
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p. Eb1251

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抄録
【はじめに、目的】 高齢期における生活障害の危険因子として、近年注目されているのがサルコペニアであり、その中核症状は骨格筋量あるいは筋力の低下である。また、生活障害を招くもう1つの危険因子として肥満があり、サルコペニアと肥満を併存した状態は生活機能を急速に低下させる可能性がある。これまで、日本におけるサルコペニアの研究は欧米に遅れをとっており、とりわけ肥満を伴ったサルコペニアの実態やその影響に関する知見がほとんど得られていない。今後さらに加速される我が国の超高齢化社会において、サルコペニアの問題はこれまで以上に重要な課題となることが予想される。以上の点を踏まえ、本研究では日本人高齢者を対象とした大規模調査の結果から、肥満度を包含したサルコペニアと歩行機能の関連性を検討し、サルコペニアの定義や評価・判定にとって有益な情報を提供することを目的とした。【方法】 65歳以上の地域在住高齢者を対象とした大規模調査(健康長寿サポート事業)に参加した1,994名のうち、身体組成と運動機能がすべて計測できた1,852名(男性875名、女性977名)を本研究の分析対象とした。歩行機能は、通常歩行速度によって評価した。身体組成はマルチ周波数体組成計(MC-980A、TANITA)を用いて部位別の筋量と脂肪量を推定した。骨格筋量と筋力および肥満度の評価には、四肢筋量を体格で補正したSkeletal Muscle mass Index(SMI)、最大握力、体脂肪率(%Fat)を採用し、Davisonらの報告を参考にSMIと握力の5分位の下2分位をサルコペニア、%Fatの5分位の上2分位を肥満と便宜的に定義し、これを基に1)正常、2)サルコペニアのみ、3)肥満のみ、4)肥満を伴ったサルコペニアの4群に対象者を振り分けた。そして、年齢を共変量とした共分散分析を用いて各群の歩行速度を比較し、有意差が認められた場合はBonferroniの方法で多重比較を行った。すべての統計解析は男女別に行い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得て実施した。また、対象者には書面と口頭にて研究の目的・趣旨を十分に説明し、研究に対する参加の同意を得た。【結果】 今回用いたサルコペニアと肥満の基準値は、男性がSMI=7.45 kg/m2, 握力=31.9 kg, %Fat=24.3%, 女性がSMI=6.07 kg/m2, 握力=20.5 kg, %Fat=34.6%であった。これによって、男性は正常群409名(46.7%)、サルコペニアのみの群120名(13.7%)、肥満のみの群279名(31.9%)、肥満を伴ったサルコペニア群67名(7.7%)、女性は正常群437名(44.7%)、サルコペニアのみの群150名(15.4%)、肥満のみの群339名(34.7%)、肥満を伴ったサルコペニア群51名(5.2%)となった。共分散分析の結果、男女とも正常群の歩行速度が最も速く、他の3群と有意差を認めた(男性: F=14.29, p<0.05, 女性: F=8.90, p<0.05)。一方、正常群以外の3群間には歩行速度の有意な差が認められなかった。【考察】 通常歩行速度は、将来の死亡率や生活障害の予測に有用な指標である。今回の結果は、サルコペニアあるいは肥満が歩行機能と有意に関連する可能性を示唆しており、これは先行研究の結果を支持するものである。一方、肥満を伴ったサルコペニア群の歩行機能はサルコペニアのみの群と有意な差を認めず、仮説とは異なる結果が得られた。今後はサルコペニアあるいは肥満度のカットポイントを見直すとともに、歩行機能に影響をおよぼす他要因を考慮した多変量解析、あるいは縦断調査の結果を基にしたさらなる検討が必要であろう。【理学療法学研究としての意義】 介護予防分野における理学療法の主な目的は、高齢者の生活機能の維持・向上であり、生活障害の回避である。サルコペニアは、このような生活機能あるいは生活障害と密接な関連をもつが、その定義や評価・判定基準はいまだ確立されていない。身体構造や機能評価に基づいた運動療法を提供する理学療法士にとって、今回の研究結果は重要な知見であったと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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