理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-18
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ポスター発表
嚥下障害に対する理学療法評価の重要性について
頚椎アライメントに対する検討
中野 寛之
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抄録

【はじめに、目的】一般的な嚥下障害に対する頸部の姿勢調整は、全頚椎での屈曲位であり、上位や下位の頚椎アライメントの有意差については、あまり検討されていない。頸椎前方固定術後に嚥下障害を生じ、装着中のハローベスト上位頸椎角度調節にて嚥下機能が改善した症例を通して、嚥下障害と上位頚椎アライメントの関係性について検討した。【倫理的配慮、説明と同意】今回の発表にあたり、本人・家族に発表の内容および個人情報保護について説明して、同意と承諾を得ている。【症例】70歳台男性、転落受傷、C7完全麻痺。【経過】受傷2日目ハローベスト装着後、3日目よりPT/OT/ST開始して、嚥下障害は無かったが、17日目 頸椎前方固定術が施行され、20日目 食事再開した際に誤嚥があり、酸素化の悪化にて食事は中止となった。23日目嚥下チーム介入して、側臥位・ギャッジアップなど姿勢調整から吸引までを徹底して行った。25日目、酸素化は安定したが 、喉頭挙上1,6cm(喉頭挙上2,0cm以下は嚥下不可)と不十分で嚥下は困難であった。理学療法評価にて頚部前面の皮膚が過剰伸張しており、舌骨上筋も前下方に突出していると判断したため、頸椎の過伸展を疑い、頸椎X-Pを再確認した。頚椎の角度測定としては、C0は後頭骨の定点を決めて接線を引き、C1は前後の環椎上縁の接線とした。C2以下は椎体下面の接線を指標とした。頸椎前方固定後に上位頸椎C0~C2では伸展方向へ20°(C0~C1は伸展方向へ7°、C1~C2は伸展方向へ13°)変化しており、下位頚椎C3~C7では合計伸展方向へ1°の変化だった。頸椎の過伸展が誤嚥に関与していると考えて、主治医と相談したところ、30日目ハローベスト調整にて手術に影響のない上位頸椎のみ屈曲方向に修正された。上位頸椎C0~C2は屈曲方向へ20°(C0~C1は屈曲方向へ11°、C1~C2は屈曲方向へ9°)修正され、下位頚椎C3~C7は合計屈曲方向へ2°の修正だった。修正して翌日の31日目には、喉頭挙上2,3cmまで改善して嚥下が可能になり、38日目より嚥下食にて食事開始となった。最終評価時点では普通食が摂取可能となった。【考察】下位頚椎(C3~C7)は屈伸全可動域110°と広いのに対して、上位頸椎(C0~C2)は屈伸全可動域30°程度と狭いが、下顎拳上に関与している事は、解剖学的に説明されている。一般的に嚥下機能障害のある患者に対しては、頸椎全体を屈曲位に調整する。しかし今回は、嚥下障害に対するアプローチとして、上位頸椎のみ屈曲位に調整する事で、皮膚の過剰伸長や舌骨上下筋の状況は著明に変化して、嚥下障害が改善した。上位頸椎の伸展による下顎拳上が、頸部前面の皮膚や舌骨上下筋の状態に大きな影響を及ぼして、嚥下障害に繋がっている可能性が示唆された。【理学療法研究の意義】これら頸椎アライメントや筋・皮膚を含めた評価に関しては、理学療法士としてアプローチできる分野であり、STとともに嚥下評価に関わっていく必要があると考えている。

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© 2013 日本理学療法士協会
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