理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-18
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一般口述発表
腰椎椎間板ヘルニア患者に対する手術後早期からの積極的リハビリテーション実施の効果について
石田 和宏対馬 栄輝司馬 恭代
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抄録

【はじめに,目的】「腰椎椎間板ヘルニア(LDH)診療ガイドライン(第2版)」では,LDH術後早期からの積極的なリハビリテーション(リハビリ)の必要性は認められないとされている.しかし,本邦の実情としては,各施設独自の方法で術後早期からストレッチングや筋力強化,ADLや社会復帰に向けた生活指導などを積極的に行っている.つまり,これらの矛盾は本邦においてLDH術後のリハビリ効果の検証に関する前向き研究が存在しないことが原因であると考える.本研究の目的は,LDH術後の早期からの積極的なリハビリ実施による効果を準ランダム化比較試験にて検証することである.【方法】対象はH20年7月からH22年8月までに当院にてLDH摘出術目的で入院した症例とした.適応基準は,1)手術手技がLove変法または内視鏡視下ヘルニア摘出術(MED),2)60歳未満の者,3)本研究への参加に同意し,本人が同意書に署名した者,とした.除外基準は,1)腰部脊柱管狭窄症を合併する者,2)変性側弯症・後弯症を合併する者,3)脊椎に手術歴がある者,4)多部位の骨・関節障害により疼痛が認められる者,5) Danielsの徒手筋力テストにて3未満の下肢筋力低下を認める者,などとした.無作為抽出は封筒法にて実施し,術後の理学療法の内容から,積極的なリハビリ実施群(介入群)と倫理面を考慮した最低限のリハビリ実施群(control群)に割り付けた.両群で実施したリハビリ内容は,術前指導として行った足関節底背屈運動,術後から実施したADL指導(独自のパンフレットを使用)とした.介入群のみ実施した内容は,体幹・下肢のストレッチングおよび筋力強化,Walkingなどの有酸素運動,個々の状態に合わせたADLや社会生活の姿勢・動作指導,物理療法などとし,術後5日目より毎日実施した.検討項目は,腰痛・下肢痛・しびれのVisual Analogue Scale (VAS),腰椎の前後屈可動性,Oswestry Disability Index(ODI)scoreおよびsub score,SF36の8下位尺度,BS-POPの患者用・治療者用score,不安の程度などとした.検討時期は,術前,術後5日,2週,1・3・6・12ヶ月とした.統計的解析は,分割プロットデザインのANOVA(SP-ANOVA),尤度比基準による多重ロジスティック回帰分析を適用した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は実験的な介入であり,ヘルシンキ宣言に則り,対象者に対して十分な配慮が必要である.研究の意義,目的,方法,研究者との利害関係が生じないこと,個人情報の取り扱い,同意撤回の自由などの説明を慎重に行い同意を得た.なお,本研究は筆頭演者所属の倫理委員会の承認を受け実施した.【結果】対象者は介入群25例,control群24例に割り付けられた.脱落者は,介入群では術後6ヶ月,control群では術後1ヶ月にヘルニア再発による各1例であった.本研究では脱落例を除いた介入群の24例,control群の23例にて統計的解析を実施した.SP-ANOVAではBS-POPの患者用スコアと腰痛VASで交互作用を認めた(p<0.05).BS-POPの患者用スコアでは,介入群が有意に良好であった(p<0.05).腰痛VASは,control群において術後3ヶ月・12ヶ月で有意な悪化が認められた(p<0.05).多重ロジスティック回帰分析では,術後1ヶ月でSF36 MH(オッズ比:1.6),下肢痛 VAS(1.1),3ヶ月でSF36 PF(1.3),下肢痛 VAS(1.1),6ヶ月でODI の物の挙上(6.8),ODI score(1.7),12ヶ月で不安(12.8),SF36 GH(1.2)・VT(1.2),しびれVAS(1.1)が抽出された(p<0.05).【考察】介入群ではBS-POPの患者用スコア・QOL・不安の改善がcontrol群に比べ良好であった.これは,術後の社会復帰に向けた積極的なリハビリ介入が精神・心理面のサポートとなり,良好な改善に至ったものと考える.また,腰痛VASは,介入群では術後12ヶ月まで良好であったが,control群は術後3ヶ月から有意な悪化が認められた.これは,術後の不良例では腰痛により座位姿勢が困難である者が多いとの我々の先行研究(梅野,2009)を踏まえると,介入群では術後早期から実施した座位姿勢の教育が有効であったと推察する.一方,介入群が不良であった項目として,下肢痛VAS・しびれVASがあった.これらは,積極的なリハビリ介入を開始する以前の時点で,介入群がcontrol群よりもVASの平均で10程度悪かったことが影響したものと考える.従って,術後早期からの積極的なリハビリは,精神・心理的側面やQOLの改善,腰痛の悪化予防に有効である.   【理学療法学研究としての意義】本研究にて得られた結果は, 本邦の実情に即したLDH術後早期からの積極的なリハビリ実施に対する有効なエビデンスとなる.LDH診療ガイドラインに対しても重要な報告の一つになり得ると考えている.

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© 2013 日本理学療法士協会
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