理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-32
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ポスター発表
非特異的腰痛症に対する積極的安定化運動の効果
第3報
荒木 秀明武田 雅史猪田 健太郎赤川 精彦太田 陽介廣瀬 泰之吉富 公昭末次 康平野中 倫子野中 崇宏山形 卓也
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抄録
【はじめに、目的】我々は運動制御障害症例に対して疼痛誘発テストの結果を勘案したHodgesらが提唱するコントロールモデルを基本にしたコア・トレーニングに加え、MgGillらが提唱するオイラーモデルを応用した積極的安定化運動を推奨している。しかし、運動中やその直後に股関節に違和感と疼痛を呈する症例が散見された。そこで今回、骨盤帯正中化後に股関節可動域制限を有する症例を対象に、荷重伝達テストと疼痛誘発テストから股関節不安定性と考えられる症例に対する効果的な積極的安定化運動の有効性を検討したので報告する。【方法】対象は著明な神経学的脱落所見を認めず、3カ月以上の罹病期間を有する非特異的腰痛症156例とした。全例に対して骨盤帯正中化施行後に腰椎と骨盤帯の疼痛誘発テストで陰性確認後、股関節に可動域制限を有する症例を抜粋して、Leeが提唱する股関節不安定性テストを基本に施行した。股関節不安定性テストは片脚立位での荷重伝達テスト、股関節内旋・伸展強制による靭帯負荷テスト、パトリックテスト、それと腹臥位での股関節自動回旋運動テストである。結果、股関節不安定が示唆されたのは21例であった。内訳は罹病期間が平均15.9±7.1週間、年齢が平均38.1歳、性別は男性6例、女性15例である。開始時、ZEBRIS社製床反力計PDMを用いて両脚立位と片脚立位時の床反力中心(Center of Pressure,以下COP)を測定し、支持面積と総軌跡長を算出した。理学検査は疼痛(Visual Analogue Scale,以下VAS)と体幹前屈角度(Finger Floor Distance,以下FFD)とした。股関節不安定群は中殿筋後部線維を中心とした動的安定化指導群(以下、動的安定化群)と従来の腹横筋再教育と多裂筋収縮運動指導群(以下、静的安定化群)に無作為に分類した。動的安定化群はKilkesolaらが提唱するMaximizing Neuromuscular Recruitment(以下、MNR)を応用した。MNRはスリングシステムを用いることで、症例の筋力と疼痛に配慮しながら必要に応じて免荷が可能なため疼痛が強い急性期の症例にも活用が可能である。今回選択した運動パターンは股関節安定化のため中殿筋後部線維と体幹側腹筋群の共同収縮運度を指導した。運動指導時、先ず腹横筋収縮を確認し、脊柱は中間位を意識させながら殿部を挙上させた。運動量は7秒間保持を7回とした。静的安定化群は腹横筋に対しては背臥位でのabdominal hollowing、多裂筋に対しては四這い位での上肢と下肢の交互挙上運動を7秒間7回指導した。両群とも運動直後に、開始時と同様に床反力計による重心動揺測定と理学検査を施行して、群間での比較を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】当院の倫理規定に基づき、十分な説明を行い、同意を得た。【結果】(1)VASは両群とも改善したが、動的安定化群のみ有意差(p<0.01)を認めた。(2)FFDは両群ともに改善傾向であったが、動的安定化群のみ有意(p<0.01)な改善を認めた。(3)COPによる支持面積は両脚立位姿勢で両群とも有意(p<0.01)な改善を認めた。患側での片脚立位は動的安定化群のみ有意(p<0.01)な改善を認めた。健側での片脚立位は両群とも変化は認められなかった。(4)COPの総軌跡長は動的安定化群において患側立位で有意な改善を認め、両脚立位と健側片脚立位では有意差は認められなかった。COPの結果から、動的安定化群において有意に立位安定姿勢が得られたことが示唆された。【考察】非特異的腰痛症に対する体幹深層筋の特異的収縮運動の無作為臨床試行が多数報告され、骨盤帯痛と慢性腰痛の再発予防に対しては安定化運動が効果的であるが、急性腰痛の機能障害と疼痛の緩和に対する効果に関しては有意差が報告されていない。また非特異的腰痛症に対する運動療法の効果に関しては、非施行群や心理療法との比較ではエビデンス低いものの効果は立証されているが、ADL指導群、腰痛教室群、認知行動療法群、物理療法群、徒手療法群との比較ではその効果は同程度であるとされている。我々は前回、骨盤帯正中化後に腰椎と骨盤帯に疼痛誘発テストを行ない、その結果に応じた動的安定化運動を選択することの有効性を提案した。今回、腰椎と骨盤帯疼痛誘発テスト陰性症例で股関節不安定性が考慮される症例に対して中殿筋後部線維を中心にした体幹側方安定化機構を疼痛に留意しながら漸増的運動療法を行なうことで、治療直後より疼痛と股関節可動域、およびCOPの総軌跡長と支持面積が有意に改善を認めた。【理学療法学研究としての意義】非特異的腰痛症例で腰椎・骨盤帯疼痛誘発テスト陰性例において股関節可動域制限を有する場合、運動制御障害による股関節不安定性の確認を行なう必要性が示唆され、運動療法により即時的効果が認められた。
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© 2013 日本理学療法士協会
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