理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-10
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一般口述発表
視覚情報と体性感覚情報との不一致時における脳活動について
西上 智彦中野 英樹大住 倫弘辻下 守弘壬生 彰川村 博史渡邉 晃久牛田 享宏
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キーワード: 疼痛, 脳波, 不一致
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抄録
【目的】健常者において視覚情報と体性感覚情報の不一致によって痛みや不快感などの異常感覚が被験者の半数程度において出現し,さらに,線維筋痛症患者や痛みを有するバイオリニストを対象に行うとより高い比率で異常感覚が出現すると報告されている.このように各種感覚情報の不整合は病的痛みの一要因であると考えられているが,これまでのところ各種感覚情報の不一致時の詳細なメカニズムについては明らかになっていない.本研究の目的は,視覚情報と体性感覚情報の不一致時と一致時の脳活動を比較すること,また,視覚情報と体性感覚情報の不一致時による異常感覚・不快感が強く生じる群と生じない群の脳活動を比較することで,視覚情報と体性感覚情報の不一致時に不快感が生じるメカニズムを明らかにすることである.【方法】対象は健常成人女性17 名(平均年齢は20 ± 0.5 歳)とした.被験者には椅子に腰かけてもらい,前方正中線上に片面がホワイトボード,反対面がミラーとなっている姿勢鏡を配置した.被験者に右側からホワイトボード,ミラーを見るよう指示した.肩関節の運動の範囲は,肩関節屈曲運動は90°まで,伸展運動は指先が臍部と同じレベルの高さになるまでとした.肩関節屈曲90°から臍部までの1 回の運動時間は5 秒とした.課題は25 秒間安静にし,次の5 秒間は両肩関節90°屈曲位を保持し,両手同時運動課題では合図と同時に両肩関節の屈伸運動,両手交互運動課題では左側の下降からはじめ,左側が臍部まで到達すると,右側の肩関節伸展,左側の肩関節の屈曲を行い,交互運動を繰り返すことをそれぞれ30 秒間行った.この安静・運動を3 回繰り返し,総測定時間は3 分間とした.これらの運動をそれぞれミラー・ホワイトボードの両方で行い,計4 課題とした.局所の筋疲労や順序効果を除外するために4 つの課題はランダムに行った.被験者にそれぞれの運動課題終了後に「なにか感じましたか」と質問し,不快感を訴えた被験者には,その強度を0-10 段階となるnumeric rating scale(NRS)で評価した.脳波の測定は,両耳朶を基準電極とした国際10-20 法に基づく頭皮上の計19 部位とした.脳波はDiscovery 24E(BrainMaster Technologies, Inc)を用いて,サンプリング周波数256Hzにて記録した.得られた脳波を周波数解析し,α帯とβ帯のパワーをそれぞれ算出した.脳領域はexact low-resolution electrical topographic analysis (eLORETA)を用いて同定した.測定課題はミラーとホワイトボードを見ながらの両手交互運動課題とした.4.統計統計はeLORETA内の統計ソフトを用いて行った.ミラーとホワイトボードの両手交互運動時の脳活動の比較には対応のあるt検定を用いた.ミラーでの両手交互運動時に不快感が強く生じる(NRS5 以上)5 名と不快感が生じない(NRS0)5 名の脳活動の比較には対応のないt検定を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得て実施した.事前に研究目的と方法を十分に説明し,同意が得られた者のみを対象とした.【結果】ミラー時とホワイトボード時の両手交互運動課題時の脳活動を比較すると,ミラー時における後頭頂葉のα帯活動の有意な低下を認めた.さらに,不快感が強く生じる群と生じない群の脳活動を比較すると不快感が強く生じる群の後帯状回のα帯活動の有意な低下および前帯状回のβ帯活動の有意な低下が認められた.【考察】ミラー時の両手交互運動課題で生じる視覚情報と体性感覚情報の不一致時に後頭頂葉のα帯活動の有意な低下が認められ,これは後頭頂葉の脳活動が活性化したことを意味する.後頭頂葉は視覚情報と体性感覚情報を統合する時に賦活することが明らかになっており,本研究において視覚情報と体性感覚情報の不一致を統合しようとするために後頭頂葉の脳活動が活性化した可能性が考えられる.不一致時に不快感を強く感じた被験者の前帯状回・後帯状回の脳活動が活性化していた.帯状回は生体にとっての異常を検出する機能を有することが明らかになっており,不一致によって不快感を生じやすい人は情報間の不整合が身体への警告信号と帯状回が判断した結果,生じているのかもしれない.【理学療法学研究としての意義】本研究結果によって,視覚情報と体性感覚情報の不一致による不快感は前帯状回及び後帯状回によって生じている可能性が示唆され,各種体性感覚情報間の不整合が病的痛みの一要因である際に,情報間の不整合が身体への警告信号ではないことを意識した理学療法を行うことが,病的痛みの減少につながるかもしれないことを明らかにした点.
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© 2013 日本理学療法士協会
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