理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-06
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セレクション口述発表
肘関節屈曲拘縮における上腕筋組織弾性の定量的評価
ShearWave Elastographyを用いての検討
永井 教生福吉 正樹小野 哲矢杉本 勝正山本 昌樹中野 隆浅本 憲林 典雄
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キーワード: 上腕筋, 肘屈曲拘縮, 弾性率
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抄録

【はじめに、目的】 上腕筋は肘関節前面に広く存在し、前方関節包とは結合組織を介し連結している。諸家により上腕筋の瘢痕化を肘関節屈曲拘縮の主因と指摘する報告は多い。臨床において上腕筋の伸張性低下や硬さは主観的に評価されており、目の前にいる屈曲拘縮症例の伸展制限の原因が本当に上腕筋であるか否かの評価基準は曖昧と言わざるを得ない。本研究の目的は健常群と軟部組織性の屈曲拘縮群を対象に、最終伸展域における上腕筋弾性の特徴を定量的に評価することである。【方法】 対象は、肘関節に障害のない成人14名28肘(23~39歳、平均29.8±6.5歳)を健常群ならびに軟部組織性の屈曲拘縮症例9名18肘(13~26歳、平均15.4±3.7歳) を拘縮群とした。弾性計測は健常群の利き手と非利き手、拘縮群の患側(全て利き手)と健側で行った。拘縮群の患側の最大伸展角度はすべて-5°の者を抽出した。計測肢位は、前腕回内外中間位で屈曲30°、20°、10°、0°の計4肢位(A)~(D)を計測し、拘縮群患側の(D)は-5°とした。また、拘縮群健側の(D)´は0°で計測した。弾性の計測には、定量的計測が可能なShearWave Elastgraphy(Super Sonic Imagine社製超音波診断装置AIXPLORER Multi Wave)にて、プローブはSuperLinear15-4を用いた。弾性はkPa単位の弾性率で算出され、5回計測した平均値を採用した。プローブは上腕の腹側より上腕骨長軸上で走査し、計測部位は上腕遠位1/3(以下、近位部)と上腕骨滑車内側面(以下、遠位部)上の2部位とした。各群における左右差および健患差の比較には2元配置分散分析と多重比較を行い有意水準は5%以下とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】 健常群と拘縮群ともに肘関節伸展に伴い上腕筋の弾性率は有意に漸増していた。健常群の利き手の近位部は(A)52.0±15.6 kPa、(B)52.9±20.1 kPa、(C)59.5±16.4 kPa、(D)79.0±25.3 kPa、遠位部は(A)77.5±23.6 kPa、(B)93.5±44.9 kPa、(C)118.3±55.0 kPa、(D)169.3±75.4 kPaであり、利き手と非利き手との間に有意差は認められなかった。一方、拘縮群の患側の近位部は(A)44.6±10.9kPa、(B)54.3±17.8kPa、(C)61.5±24.5kPa、(D)92.4±39.5kPa、遠位部は(A)65.9±21.8kPa、(B)88.6±29.7kPa、(C)112.1±49.2kPa、(D)205.1±73.5kPa、健側の近位部は(A)43.6±12.1kPa、(B)47.8±11.4kPa、(C)52.7±12.3kPa、(D)62.6±14.0kPa、(D)´72.6±18.5kPa、遠位部は(A)59.8±18.3kPa、(B)70.9±12.8kPa、(C)82.3±19.4kPa、(D)109.3±29.0kPa、(D)´136.4±48.8kPaであった。拘縮群では近位部、遠位部ともに(D)において患側と健側との間で有意差が認められた(P<0.05、P<0.01)。【考察】 弾性率が大きいことはその組織が変形しにくいことを意味し、硬さを反映することになる。健常群の結果より近位部と遠位部ともに全ての角度で左右差がないことから、拘縮という病態がなければ上腕筋の弾性率に左右差は生じない。これに対し拘縮群では、1)患側の近位部・遠位部とも最終伸展になるにしたがい急激に漸増すること、2)患側の伸展-5°の弾性率は、健側の0°よりも大きいことから、臨床上難渋する最終伸展域の制限因子として上腕筋の硬さが関与することが示唆された。また、同じ伸展制限でも組織弾性の評価において上腕筋の硬さがない場合では、その他の組織を念頭に対処する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 臨床において上腕筋の伸張性低下が拘縮の原因であるかの評価基準は曖昧であることから、肘頭の骨棘切除術の安易な選択あるいは無意味な保存療法の継続または断念など闇雲に治療方針が決定されることは少なくない。このような観点から軟部組織性拘縮の主因である上腕筋が伸展制限因子か否かの判断を定量的かつ明確に行うことは意義がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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