理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-33
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ポスター発表
当院における人工股関節置換術後患者の退院時の運動機能
永富 祐太河野 一郎藤吉 大輔宮里 幸最所 雅海山 京子北里 直子中島 康晴高杉 紳一郎岩本 幸英
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抄録
【はじめに】変形性股関節症の患者は除痛,歩行能力の改善を目的に手術を決断されているのに対し,術後3~4週といった短期間の治療では,十分な運動機能が獲得されないまま退院に至っているという報告がある.しかし,急性期医療では,クリティカルパス(以下,CP)や診断群分類包括評価制度の導入により,入院期間の短縮が主流となっている.当院における人工股関節置換術(以下,THA)の CPは術後2日目より離床を開始し,4日目より全荷重歩行練習開始,術後25日目の退院を目標としている.そこで,今回,THA施行患者の退院時の運動機能を知る事を目的として.術前と退院時の運動機能について調査を行い,若干の知見を得たので報告する.【方法】本研究はリハビリテーション実施記録を用いた後方視的研究であった.対象は,2012年5月~10月の間に変形性股関節症の診断で,THAを施行された者のうち,合併症等でCPから逸脱した者や再置換術例を除き,術前と退院時の評価が可能であった31名(男性6名,女性25名,平均年齢65.6±10.3歳)とした.評価項目は両側の股関節外転・屈曲・伸展・外旋の関節可動域(以下,ROM),筋力,歩行能力,疼痛,脚長差とした.筋力はHand-Held Dynamometer(アニマ社製,μ-Tas F1)を用いて腸腰筋・中殿筋・大腿四頭筋の等尺性筋力を測定し,トルク体重比(Nm/kg)を算出した.また,歩行能力の評価として10m最大努力歩行時の時間および歩数,疼痛の評価としてVisual analog scale(Vas),脚長差の評価として棘果長を測定した.統計には,術前と退院時の各測定項目について対応のあるt検定を用い,統計学的有意基準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理規定に基づき実施した.個人情報についてはヘルシンキ宣言に基づいた規定に遵守し,個人が特定されないように匿名化し,データの取り扱いには十分注意した.【結果】手術から退院時評価までの期間は23.5±3.8日であった.術側の術後ROMは股関節伸展3.4度→5度,外転18.5度→24.7度と改善しており(p<0.05),股関節屈曲は81.9度→85.8度,外旋は22.7度→26.3度と改善を示したものの有意差はなかった.筋力は腸腰筋が術側0.49→0.58(Nm/kg),非術側0.66→0.75(Nm/kg)と両側とも有意に(p<0.01)改善していた.術側の中殿筋0.44→0.45(Nm/kg),大腿四頭筋0.75→0.71(Nm/kg)には有意差は認められなかったものの,術前と同等まで回復していた.歩行時間は術前9.9±3.9秒,術後9.4±2.8秒,歩数は術前18.9±5.8歩,術後18.5±3.6歩と若干改善しているものの有意差を認めなかった.疼痛は38.9±26.3→6.6±10(mm)と有意に(p<0.01)低下しており,脚長差は1.1±0.7→0.2±0.4 (cm)と有意に(p<0.01)低下していた.【考察】現状の入院期間は,手術の主目的である除痛や可動域の拡大には十分な効果が期待できる期間であり,大腿四頭筋以外の筋力は術前の状態と同等またはそれ以上に回復することが分かった.しかし,非術側レベルまでには回復しておらず,回復にはさらに時間が必要であると考えられる.除痛効果があったにも関わらず,歩行能力が術前と同程度であった理由の一つに大腿四頭筋の筋力不足が考えられる.大腿四頭筋の筋力は歩行能力の改善に重要であることは明らかであり,変形性関節症という病態から術前にも筋力低下が認められることや,人工関節の保護のためにも,退院後にホームエクササイズを通して筋力向上を行っていく必要があると考えられる.今後は,退院時指導をさらに充実させ,長期的な運動機能の定量的評価を行い,合わせてTHA後のADLや患者の満足度との関連についても検討していく予定である.【理学療法学研究としての意義】当院での退院時の運動機能を先行研究と比較することで,当院の傾向を分析することができた.術後早期から退院前の状況を見据えて介入するための根拠となりえるものであると考えられる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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