理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-04
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一般口述発表
片脚着地動作時の膝関節運動と筋活動の関係
畔柳 崇佐藤 菜穂子
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抄録

【はじめに、目的】膝前十字靱帯(Anterior Cruciate Ligament:以下,ACL)損傷は,スポーツ外傷の中でも発生頻度が高く,ひとたび受傷すると高いレベルでのスポーツ活動を継続することが困難となり,復帰までに半年から1 年近くを要することがある.ACL損傷は非接触型の損傷が約70%を占めており,近年ではその予防の重要性が示唆されている.ACL損傷を予防する方略のひとつとして受傷機転の解明が挙げられる.ACL損傷に関する先行研究では,生体力学的解析としてジャンプからの着地動作を用いたものが多数報告されている.先行研究のジャンプや落下による着地動作の解析では,着地時の膝関節の屈曲角度(以下,膝角度),筋活動,膝関節外反量の指標であるknee in distance(以下,KID)に焦点が当てられている.しかし,これらの先行研究では膝角度,筋活動,KIDを同時に測定したものはみられない.よって本研究は,片脚着地動作時の膝角度,筋活動,KIDを測定し,これらの指標の相互関係について検討することを目的とした.【方法】被験者は,下肢に骨関節疾患の既往のない健常大学生20 名(男性10 名,女性10 名,平均年齢21.5 ± 0.5 歳)とした.被験者はすべて右下肢で測定を行った.課題は高さ30cmの台から片脚で30cm前方の床面に着地する動作とした.サンプリング周波数30Hzのビデオカメラ(ビクター社製),サンプリング周波数1500Hzの筋電図システム(Tele myo2400,Noraxon 社製)及び2Dゴニオメーター(Noraxon社製)を用いて測定を行い,得られたデータから,膝関節の外反が最大となる瞬間のKID,筋活動,膝角度を算出した.KIDの算出は,画像分析ソフトウェアDartfish TeamPro5.5(ダートフィッシュ社製)を用い,上前腸骨棘と膝蓋骨中心を結んだ延長線と床と平行な線が交わる点をA点,母趾中央部をB点とし,そのAB間の距離をKIDとした.被験筋は内側広筋,大腿直筋,大殿筋,大腿二頭筋・長頭,半腱様筋,中殿筋,長内転筋とした.被験筋それぞれの最大随意性等尺性収縮(Maximum Voluntary Contraction:以下,MVC)の測定を行い,%MVCを算出した.測定はすべて3 回行い,その3 回の平均値を各測定の代表値とした.本研究では,加賀谷らの研究(2010)の結果から,膝関節外反量の基準を作成し,その値をもとに被験者を2 群に分けた.基準値よりも膝関節外反量の多い群をknee in群,膝関節外反量の少ない群を非knee in群とし,膝角度,および筋活動量を,対応のないt検定を用いて2群間で比較した.さらに,膝角度,筋活動量,KIDそれぞれの関係をみるために,Pearsonの相関係数を用いて検定を行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は名古屋学院大学人間健康学部医学研究会の承認を得て行い,被験者には本研究の主旨を説明し,内容を十分に理解していただいた上で書面にて同意を得た.【結果】まず筋活動量では,大殿筋を除くすべての筋において非knee in群がknee in群よりも筋活動が高い傾向を示したが,有意差はみられなかった.膝角度ではknee in群が非knee in群よりも角度が大きくなる傾向を示したが,有意差はみられなかった.筋活動量の相関では,knee in群のKID値と大殿筋の筋活動量に中程度の正の相関がみられた(r=0.56,p<0.05).【考察】knee in群,非knee in群での比較において,筋活動量および膝関節最大外反時の屈曲角度に有意差は認められなかった.菅田らの研究(2008)では,着地動作における膝関節の屈曲角度,膝関節外反角度変化量は女性が男性よりも有意に大きい値を示したと報告している.女性は男性に比べて骨盤の幅が広いことや体重あたりの筋量が少ないことなど,ACL損傷を引き起こす要因となる解剖学的な特徴を有している.本研究では,男女の比較でなく,着地時の膝関節最大外反角度によって2 群に分けて比較をしたため,有意差が認められなかったものと考える.またknee in群においてKID値と大殿筋の筋活動量に中程度の正の相関が認められた.大殿筋は股関節伸展の主動作筋であるが,股関節外旋にも作用し,大殿筋が作用しないことで股関節内転・内旋に伴う膝関節外反・下腿外旋が生じやすくなると考えられる.また金子らの研究(2011)より,大殿筋は股関節内旋の調節作用や膝関節外反モーメントへの抵抗など,ACL損傷の危険肢位とされる膝関節外反に抗する筋として重要であることが報告されている.よって,knee in群では膝関節外反量が大きくなるほど膝関節外反を制動するための大殿筋の筋活動量が増加する傾向があり,大殿筋は片脚着地動作においてACL損傷を防ぐための重要な筋であると考える.【理学療法学研究としての意義】本研究結果から,片脚着地動作時における膝関節外反量には大殿筋の筋活動が関係していることが明らかになった.このことは,ACL損傷予防のための動作解明の一助になる可能性がある.

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© 2013 日本理学療法士協会
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