理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-22
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一般口述発表
腰椎分離症症例における競技別での身体特性
上池 浩一森 孝久
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抄録

【はじめに、目的】腰椎分離症(以下分離症)は成長期のスポーツ選手に好発する疾患であり、腰椎関節突起間部の疲労骨折と考えられている。そのため急性疾患として捉える必要があり、骨癒合の可能性が高い時期にMRIやCTでの早期診断と治療開始が重要である。理学療法アプローチでは体幹装具による腰椎にかかるストレスの軽減や運動療法における股関節・体幹機能の改善が中心となるが、スポーツ場面では種目により制限を受けやすい運動方向、制限による代償機構、必要な動作パターンに違いが生じると思われる。しかし各競技における分離症症例の身体特性について報告されたものは少ない。そこで各競技間での股関節可動域制限や、動作パターンが分離症発生にどう影響しているか検討したので報告する。【方法】対象は平成19年9月~平成24年10月に当院を受診し、CT検査の結果腰椎分離症の確定診断を受け、運動器リハビリテーションの処方がなされ最終的にスポーツ復帰可能であった183名(男性163名、女性20名、平均年齢17.1±2.49歳、平均身長166.4±8.30cm、平均体重61.2±9.70kg)を対象とした。競技種目については対象が行っていた上位4種目を選び、サッカー(以下S群)73例、野球(以下B群)56例、陸上(以下FT群)29例、バレーボール(以下V群)25例であった。分離症の病期は初期83例、進行期31例、終末期77例で、分離椎体はL5 171例、L4 11例、L3 1例であった。また両側性は111例、片側性は72例であった。測定方法は全例について利き手、利き足の別について問診した。次に両側股関節可動域を全運動方向について測定し、さらにハムストリングスのtightness を検討するためにSLRも加えた。測定肢位については日本整形外科学会参考可動域測定の方法に準じて測定し、全て他動運動にて行い、5°刻みで記載した。分析項目は1:各競技での股関節可動域の差、2:各競技における片側性の割合、3:利き手・利き足と片側性分離症の関係である。統計処理はMann-Whitney のU検定、多重比較検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】全症例に対して測定の趣旨と本人の不利益にならないことを説明し、データの公開に対して本人もしくは保護者の承諾を得たうえで本研究を実施した。【結果】S群では蹴り足股関節屈曲・伸展・内転・内旋・SLR、B群ではステップ足股関節屈曲・内転・内旋において制限を認めた。FT群、V群については股関節可動域に有意差を認めなかった。各競技における片側性の割合はS群では39.7%、B群では35.7%、FT群では31.0%、V群では56.0%であった。利き手・利き足と片側性分離症の関係について、利き手・利き足の反対側に有意に片側性分離症を示していた。特にV群男子にその傾向が強く見られていた。【考察】本研究の結果から、S群、B群では一側の股関節可動域制限が認められた。これは競技によってtightnessが生じる部位に違いがあるものと推察する。S群ではキック動作で使用頻度高い筋群に、B群では投球動作においてステップ足股関節周囲筋の遠心的な収縮が誘因となり制限が生じたものと考えられる。いずれも股関節の制限によって、本来股関節での回旋運動が過度の体幹回旋主体で行われたため腰椎に大きなストレスが生じ分離症に至ったものと思われる。またFT群、V群では明らかな股関節可動域の差を認めなかったが、特にV群男子ではその殆どがアタッカーで、片側性分離症の割合が高く、低身長ということである。この結果より、より高い打点でのスパイクやブロック、またコースの打ち分けなどにより腰椎に強い伸展・回旋ストレスが生じていたのではないかと推察される。先行研究で分離症は初期に適切な治療を行えば骨癒合率は高くなるが、治療時期を逸し終末期まで進行すると骨癒合は期待できないと報告されている。今回の結果を踏まえ、競技別で制限を受けやすい運動方向、動作パターンを考慮した理学療法がスポーツ復帰や予防の観点で肝要であると考える。【理学療法学研究としての意義】各競技種目の特性を考慮し、制限を受けやすい運動方向や動作パターンを考慮して理学療法を行うことは、分離症症例のスポーツ復帰率や再発予防に対して重要な要素であると思われる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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