抄録
【はじめに、目的】 脳卒中治療ガイドラインにおいて,リハビリテーション(以下リハビリ)プログラムを実施する際,日常生活動作(ADL),機能障害,患者属性,併存疾患,社会的背景などをもとに機能予後,在院日数,転院先を予測し参考にすることが勧められており,既に検証の行われている予測手段を用いることが望ましいとされている.当院においても効率的なリハビリを提供するため予後予測を積極的に活用しており,園田(1995),小山ら(2005)の先行研究を参考に予後予測を行ってきた.園田の予後予測は重回帰分析による帰結予測を行うもので,小山らは対数曲線を用いる予後予測法である.しかし,先行研究で検討された対象者と当院の対象者では年齢層やリハビリ開始までの日数など患者属性が異なる点が多いためか予後予測の結果と実際の帰結に差がみられることも少なくなく,特にFunctional Independence Measure(以下FIM)の改善が大きいとされる入院時96点未満の脳卒中患者で誤差が大きくなる印象があった.本研究の目的は,当院の患者属性における退院時のADL自立度に影響を与える因子を明らかにし,また退院時FIM得点の予測回帰式を検討することである.【方法】 対象は2010年12月から2012年8月までに初発の脳梗塞または脳出血と診断され当院回復期病棟に入院した脳卒中患者で,以下の検査を全て実施可能であった入院時FIM 96点未満の65名(男性41名,女性24名)とした(テント下病変,クモ膜下出血,リハビリ中止例は除外).解析に用いる因子は,発症から当院入院までの日数(以下,日数),年齢,入院時FIM,入院時Stroke Impairment Assessment Set (以下SIAS),入院時Functional Balance Scale(以下FBS),入院時意欲(Vitality Index;以下V.I)とした. 分析は,日数,年齢,入院時FIM運動項目(以下FIM-m),入院時FIM認知項目(以下FIM-c),SIAS,FBS,V.Iを説明変数,退院時FIM-mを目的変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行い,退院時FIM-mの予測回帰式を求めた.統計処理にはR2.8.1.を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 評価実施時に評価結果の使用方法の趣旨を説明し口頭にて同意を得た.また後方視的研究となるため,個人の情報が特定されないよう倫理的な配慮を行った.【結果】 対象者の属性は,日数30.6±13.2日,年齢75.9±8.8歳,入院時FIM-m 32.2±15.5点,入院時FIM-c 22.4±10.8点,退院時FIM-m 50.9±22.6点,SIAS 42.4±16.8点,FBS 12.1±12.2点,V.I 7.5±2.5点であった. 説明変数間において,入院時FIM-mとFBS,入院時FIM-cとV.Iの間に強い相関(r>0.8)が認められたため,多重共線性の問題からFBSとFIM-cは重回帰分析の説明変数から除外された.ステップワイズの重回帰分析では入院時FIM-m,年齢,V.I,SIASが採択され,日数は棄却された.得られた回帰式は,54.5+入院時FIM-m×0.539+V.I×2.674+年齢×(-0.717)+SIAS×0.318(R²=0.67,p>0.001)であった.【考察】 当院の対象者における退院時FIM-mの影響因子を検討した結果,入院時のFIM-m,V.I,年齢,SIASが採択され,作成された回帰式は高い決定係数が得られた.先行研究で運動機能の回復に対して入院時FIM-cが重要とする報告はみられるが,今回の結果ではV.Iが採択された.つまり回復期病棟で集中的なリハビリを意欲的に取り組むために入院時の意欲が重要であると示唆された.V.Iは認知面との相関が認められていること,観察による簡便なQOL評価であることから臨床上有用なものと考えられる.また先行研究では採択されていた日数が今回棄却された理由として,地域連携パスの導入により急性期病院から回復期病院への転院が1ヶ月前後で行えているため,対象者間での日数による差が減少し影響が少なくなったものと思われる.入院時の評価から,当院におけるADLの予後予測が行えることが示唆された.今後は当院の患者属性から得られた予測式と先行研究の予測式の精度を比較検討していくことが課題として挙げられる.【理学療法学研究としての意義】 病院独自の予測手段を検討することで,より対象者に合った予測することができ,リハビリプログラムの立案,目標設定のための標準化を目指すことができると思われる.