理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-21
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一般口述発表
サル脊髄損傷後の自然回復機構による皮質脊髄路網再編と運動機能変化
中川 浩二宮 太平高田 昌彦山下 俊英
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抄録
【はじめに】ヒトの皮質脊髄路は,手指の巧緻動作をはじめとする四肢の動きを司る神経回路として重要な役割を担っている。脊髄損傷により皮質脊髄路が損傷されると,四肢の麻痺や運動機能障害が生じる。成熟した中枢神経が一度損傷されれば,その後の再生は極めて困難であると考えられている。しかし,自然経過とともに徐々に機能回復がみられることがある。この回復機序には,残存した神経回路(網様体脊髄路,赤核脊髄路,脊髄固有ニューロン)による代償や非損傷側皮質脊髄路の軸索枝が新たに損傷側へ伸長・分岐させる代償などが考えられている。しかし,一度損傷された皮質脊髄路がその後の自然回復に寄与しているかについては未だ十分に理解されていない。そこで,本研究はサル脊髄損傷後の皮質脊髄路網再編と機能回復を解析することで,内在性の神経可塑性変化による機能回復メカニズムを明らかにし,その神経基盤を明らかにすることを目的とした。【方法】対象はマカクザル(アカゲザル,年齢:4 歳,5 歳,11 歳,体重:4.3 kg,4.9 kg,5.1 kg)とした。脊髄損傷は,深麻酔下にて各種モニタリング(心電図,血圧,SpO2,呼吸数,体温)のもと,右頸椎7/8 間の片側2/3 切断モデルを作成した。行動学的解析には上肢・手指機能の量的評価であるBrinkman board testとReaching testを,質的評価としてReaching test時の精密把持(Precision grip)の割合(%)を用いた。評価は損傷後3,5,7,10,14 日目とその後各2 回/週に行った。上肢・手指領域における皮質脊髄路網形成の評価には,皮質内微小刺激(Intracortical microstimulation:ICMS)を用い左一次運動野を刺激部位として,その閾値を算出した。皮質脊髄路の可視化は,順行性トレーサー(Biotinylated dextran amine: BDA)を左一次運動野に注入して行った。組織学的解析は,脊髄損傷後10 日目,100 日目に行った。【倫理的配慮】本研究はNational Institutes of Health (NIH)のガイドラインに沿い,京都大学霊長類研究所の倫理規定に基づいて行われた。【結果】Brinkman board testでは,自然経過とともに機能回復がみられ損傷前に比べ約83%までの回復がみられた。Reaching testでは自然経過とともに機能回復がみられ,損傷前に比べ差が見られない程度までの回復がみられた。しかし,質的評価であるPrecision gripの割合では巧緻性の障害が顕著に残存していた。機能回復がみられた後のICMSでは,脊髄損傷されていないものに比べ手指領域の明らかな閾値の差は見られなかった。組織学的解析では,脊髄損傷後10 日目の皮質脊髄路では損傷部位を超えた軸索枝は観察されなかったが,脊髄損傷後100 日目では損傷部位を超えた軸索枝が観察された。【考察】一度損傷されたサル中枢神経にも,内在性に神経可塑性を有していることが示された。さらに,神経可塑性変化によって誘導された神経軸索枝は損傷部位を超えてシナプスを形成していた。しかし,行動学的解析では損傷後の自然回復によって粗大な運動は顕著な回復を示したが,精密把持などの巧緻動作については後遺症として明らかな運動機能障害が認められた。これらのことより自然回復による皮質脊髄路の回路網再編では,部分的な神経回路網形成による粗大運動機能の回復はみられるが,巧緻動作を必要とする運動機能の回復には不十分であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】脊髄損傷後,自然経過とともに一部の軸索枝は損傷部位を超えて回路形成することを明らかにすることができた。しかし,この新たな神経回路網は精密な巧緻動作の回復には不十分であった。これらの結果は,脊髄損傷後の上肢・手指機能改善を念頭においた理学療法プログラムを構築するうえで重要な知見であり,今後の理学療法治療に結びつくものと考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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