理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-12
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ポスター発表
片脚立位と片脚スクワットにおける足圧中心軌跡の関係
山中 悠紀浦辺 幸夫篠原 博藤井 絵里笹代 純平高井 聡志大隈 亮
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抄録

【はじめに】立位での姿勢制御能力の評価は足関節捻挫や膝前十字靭帯損傷などの下肢スポーツ障害による影響を知るための重要な指標となる。先行研究ではその測定に床反力計が利用されており、片脚立位保持などの姿勢保持課題での足圧中心(COP)動揺の増大によって姿勢制御能力の低下が示されてきた。ただ、立位姿勢保持時のCOP動揺だけでは下肢の機能障害を捉えきれないとの指摘もあり、障害の重症度や評価の目的に応じて姿勢を維持した状態で重心の移動が求められるより動的な課題での評価の必要性は高い。我々は動作状況の推察に適した課題として片脚スクワット動作に着目しており、本学会において片脚スクワット時の前後方向のCOP動揺パラメータに再現性を報告している。しかし、片脚スクワット動作における姿勢調節とCOP動揺の関係や立位姿勢保持時のCOP動揺との関連性については不明な点も多い。本研究では両脚スクワット動作開始直後にCOPが前後方向のどちらに移動するかによって姿勢調節に違いを報告したHaseら(2004)の先行研究を参考に、片脚スクワット動作開始時のCOP移動方向による姿勢調節の違いや片脚立位時のCOP動揺との関連性を検討した。【方法】健常成人男性9 名(年齢22.8 ± 2.5 歳、身長174.7 ± 4.3cm、体重63.9 ± 4.9kg)を対象として、床反力計(AccuGait、AMTI社)上にて裸足右下肢での片脚立位保持3 回と片脚スクワット動作5 回を実施させ、COP動揺を計測した。片脚立位は胸部前方で両上肢を組み視線の高さの2m前方を注視させた状態で行わせ、サンプリング周波数50Hzで記録した10 秒間のデータを解析に使用した。片脚スクワットは片脚立位から全足底を接地した状態からバランスを崩すことなく膝関節を屈曲し再び開始肢位に戻る動作を5 秒以内で行わせ、サンプリング周波数200Hzで記録したばらつきの少ない3 回のデータを解析に使用した。スクワット動作の開始と終了は2 台のハイスピードカメラ(FKN-HC200C、フォーアシスト社)にてサンプリング周波数200Hzで撮影した画像および電気角度計(バイオメトリクス社)で計測した足関節および膝関節角度から決定した。片脚スクワット動作開始後の最初のCOP移動方向は動作開始前0.25secのCOP動揺を基準として、その値が平均値± 2 × 標準偏差を超えた点で判断し、それぞれの片脚立位および片脚スクワット時のCOP位置、COP動揺パラメータを比較した。COP位置は足部を長方形モデルで捉えて支持基底面内での踵端からの距離として足長で正規化し、COP前方限界、後方限界、移動範囲、平均位置を算出した。COP動揺パラメータには理学療法学分野で一般的に利用される前後および左右の動揺速度、動揺標準偏差、動揺範囲、矩形面積、実効値面積を選択した。独立2 群間の比較にはt-testを使用し、有意水準はp<0.05 とした。【倫理的配慮】本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認後に被験者の同意を得て実施した(#1088)。【結果】片脚スクワット動作時に9 名中5 名(F群)でCOPが最初に前方へ、3 名(B群)で後方にCOPが移動した。2 群間で片脚スクワット動作時のCOP動揺パラメータ、膝関節屈曲角度(F群:74.7±15.5°、B群:76.3±10.6°、p=0.92)、足関節背屈角度(F群:27.3 ± 3.0°、B群:29.8 ± 2.1°、p=0.29)に有意差は認められなかった。また、片脚立位時のCOP動揺パラメータにも2 群間に有意差を認めなかったが、COP前方限界(F群:53.1 ± 4.7%、B群:62.3 ± 2.2%、p=0.01)、COP平均位置(F群:47.3 ± 5.4%、B群:56.4 ± 2.6%、p=0.04)に有意差が認められた。【考察】本研究においてB群ではF群と比較して片脚立位時のCOP位置が前方にあり、片脚スクワット動作の開始にともなってCOP位置を後方へ移動させる姿勢調整を行っていた。Cheronら(1997)は運動戦略の選択は下肢を屈曲する前の姿勢に影響を受けるとしており、片脚スクワット時の姿勢調節が片脚立位時のCOP制御に影響を受ける可能性が示された。ただ、Lyonら(1997)は動作開始時の運動戦略が最終姿勢を規定するとしているが、本研究では両群間の膝関節および足関節角度に有意差は認められず、その影響については今後の検討課題とした。【理学療法学研究としての意義】姿勢制御能力の客観的な評価は理学療法の重要な課題であり、片脚スクワット時の前後方向のCOP動揺と片脚立位でのCOP制御位置との関係を示した本研究結果は、姿勢制御能力の評価法の発展に資する意義がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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